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38.その所業は

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「マグナード様は紳士な方ですね……」
「……」
「ですが、目を開けてください。あなたにも、見てもらわなければならないものですから」
「……わかりました」

 ミレリア嬢が服をはだけさせた瞬間、マグナード様は目を瞑って顔をそらしていた。
 それは、女性の肌を見ないようにするための配慮であるだろう。
 ただ、本人に促されたことで、彼はミレリア嬢の体を目にした。そしてその表情は歪む。

「これは……」
「ええ、これは私の婚約者であるヴォルダンによってできた痣です」
「ひどい話ですね。こんなのは許せません」
「イルリア嬢、あなたの気持ちはありがたく思います。しかしながら、重要なのはそこではないのです。この痣はあくまで、彼の恐ろしさを知ってもらうために見せたもの……」

 マグナード様が確認したのを見た後、ミレリア嬢は服装を正した。
 自らの体に刻まれたものによって恐ろしさを伝えるというのは、かなり勇気がいることだっただろう。それでも見せてくれたということに、私は敬意を覚えていた。
 彼女に対する警戒は、もう解いていいだろう。私はそう判断した。あの痣を見せられた今、彼女に対して疑念を抱くことなんて、できる訳がない。

「弟のムドラスも、ヴォルダンに影響されています。つまり彼らは、危険なコンビとなっているのです。そんな彼らは、お二人を狙ってくるかもしれません」
「それは、私達がナルネア嬢を追い詰めたから、ということですか?」
「ええ、少なくともナルネア嬢が体調を崩したのが、イルリア嬢が関係していることは掴んでいるでしょう。何をしてくるか、わかりません」

 ミレリア嬢は、私達に危機が訪れていることを知らせてくれた。
 今回の呼び出しの目的とは、そういうことなのだろう。となると彼女は、とてもいい人ということになる。
 そんな彼女が不幸な境遇にあることは悲しい。なんというか、心が痛くなってくる。

「ご忠告ありがとうございます。私、気をつけます。その二人に危害を加えられないように」
「……あなたの意図が、それだけであるとは思えませんが」
「え?」

 そんな風に思っていた私に対して、マグナード様は鋭い目をしていた。
 それは、ロダルト様やナルネア嬢に向けていたものよりは柔らかいものだ。ただ、彼が目の前にいるミレリア嬢を完全に信頼していないということは、なんとなく理解できた。

「ミレリア嬢、全てをお話してください。その方があなたにとっても、いいでしょうから」
「……流石ですね、マグナード様」

 ミレリア嬢は、苦笑いを浮かべていた。
 つまり、彼女には何か隠していることがあるということなのだろう。
 ただ私は、ミレリア嬢が悪い人であるとは思えなかった。事情が隠れているとしても、それはきっと仕方ないことなのではないだろうか。
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