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31.断ち切りたくない関係

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「おはようございます、イルリア嬢」
「お、おはようございます」

 意味深な感じで教室からマグナード様が去って行った日の後日、彼はいつも通りの挨拶を私にしてきた。
 その意図がよくわからなくて、私は言葉を詰まらせることになってしまった。マグナード様は、私と適切な距離を取ってくれるのではなかったのだろうか。
 いや、よく考えてみれば、別に隣の席の子が登校してきて挨拶するのはおかしくない。これは他の人にもやっていることだし、いいのだろうか。

「……」

 私は、とりあえず席に着いてから周囲を見渡す。
 そしてナルネア嬢が、こちらを見ていることに気付いた。
 彼女は、不機嫌そうな顔をしている。どうやら挨拶だけでも、駄目だったようだ。

「……イルリア嬢、申し訳ありません。僕の行いが、返って彼女を刺激してしまったようです」
「え?」
「どうやらこちらも、覚悟を決めなければならないのでしょう。協力してもらえますか?」
「あの……話が見えてこないのですが」

 そんなナルネア嬢の方を見ながら、マグナード様は小声で話しかけてきた。
 ただ、その言葉の内容が私にはわからない。彼の行いとは何で、協力するとは一体どういうことなのだろうか。
 しかし事実として、マグナード様はナルネア嬢がことの原因であると気付いているようだ。その辺りは、流石としか言いようがない。

「僕が余計なことをしてしまったのです。とはいえ、僕はあなたとの関係を断ち切りたいとは思えません。そもそも、他者に僕の生活を害されるのは不快ですからね」
「それは……」

 マグナード様は、冷たい声色をしていた。そこからは、彼の怒りが読み取れる。
 それ程に私との生活を大切に思ってくれていたのは、嬉しいことだ。同時にそれを断ち切ろうとしていたことについて、申し訳なく思う。

「私としても、本当はマグナード様との生活を断ち切りたいとは思っていません。ただ、ナルネア嬢の言い分にも一理くらいはあると思っているんです。私とあなたは身分が随分と違う訳ですからね。その……婚約の関係とかもあるでしょう?」
「なるほど、あなたはそのことについて気にしていたという訳ですか。しかし、だからといって他者を害するような真似をしていいということになりません。端的に言ってしまえば、僕はナルネア嬢のことが個人的に気に入らないのです」

 マグナード様は、彼にしては珍しくはっきりとした敵意を口にした。
 今回のナルネア嬢の行いには、かなり怒りを覚えているようだ。
 これは何を言った所で、止まることはなさそうである。それなら私も、覚悟を決めて、彼に協力するとしようか。私だって、ナルネア嬢の行いには当然思う所がある訳だし。
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