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30.いとこ同士の一幕(モブ視点)

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「警告とは、ご苦労なことだな」
「……ブライト殿下」

 マグナード・ビルドリム公爵令息は、第二王子のブライトに呼び止められていた。
 少しばつが悪そうな顔をするマグナードに対して、ブライトは呆れたような笑みを浮かべる。

「相変わらず甘い奴だな。俺なら、警告なんてしないぞ」
「わざわざことを荒立てる必要はありませんよ。丸く収まるのならその方がいい」

 マグナードは、争いを好まない。その性格は、ブライトもよく理解している。
 それを甘いと思いながらも、ブライトはそんなマグナードのことが嫌いではなかった。同じ高い身分を持つ者として、そういった姿勢は見習いたいと思っている程だ。

「まあ、今回は相手が侯爵である訳だしな……噛みつかれたら、いくらビルドリム公爵家でも厳しい相手だ」
「……その辺りは、伯父様に相談すればいいだけのことです」
「父上に助力を求めるか。まあ、父上はブラコンだからな。弟の息子であるお前には、俺達以上に甘い」

 ブライトは、マグナードの性質を思い出していた。
 あくまでも平和的な解決を望む彼だが、それが叶わなかった場合は全力を持って相手を叩き潰す。それがマグナードという男なのだ。

 それは彼の優しさがそうさせているという面はある。ことが拗れて実態が悪化するくらいなら、すぐに解決できる程の権力をぶつけようとするのだ。
 その躊躇いのなさこそが、ブライトがマグナードを怖いと思う一番の理由である。

「まあ、狙っている張本人に警告されたのだから、いくらナルネア嬢でも少しは躊躇いを覚えるものか……」
「……心配なのは、彼女が僕を認識しているのか怪しいという所なのですが」
「……なんだって?」

 マグナードの言葉に、ブライトは面食らっていた。
 いくらなんでも、ナルネアがマグナードを認識していないことなんてあり得ない。ブライトは、そう思っているのだ。

「あり得ないだろう。曲がりなりにも、狙っている相手の声がわからないなんて」
「その割には、反応が薄かったような気がするのです」
「あのナルネア嬢とかいう奴は、とことんとどうしようもない奴なのかもしれないな……」

 ブライトは、ゆっくりとため息をついた。
 それを見ながら、マグナードが笑みを浮かべる。今度は彼の方が、呆れたような笑みを浮かべていた。

「それにしても、ブライト殿下も人がいいですね」
「なんだ、藪から棒に」
「イルリア嬢のことが心配でこんな所まで来ていたのでしょう? あなたは上級生ですからね。よく考えてみれば、こんな所に本来いる訳がありません」
「……まあ、一度見てしまった以上はな」

 マグナードの視線から、ブライトは目をそらした。
 そんな風にしながら、高い地位を持ついとこ同士は放課後を過ごすのだった。
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