上 下
12 / 100

12.子爵家の秘密

しおりを挟む
「申し訳ありません、マグナード様。頼れるのがあなたしかいなくて……」
「いいえ、構いませんよ。僕も首を突っ込んだ側ですからね」

 私は、マグナード様とともにエムリーの元に向かっていた。
 エムリーと話す際に必要なのは、第三者の存在であった。今の彼女は、何をするかわからない。そのためにも、抑止力となる人が必要なのだ。
 それを私は、マグナード様にお願いするしかなかった。悪評が流れた結果、私が頼れる人は他にいなくなってしまったのだ。

「まあ、抑止力という意味から考えると、僕は適切ですからね。何しろ、公爵令息ですから」
「それは……そうなんですよね。マグナード様の意思には反することですが」
「構いませんよ。現実が理想とは違う以上、仕方ないことですからね」

 マグナード様は、苦笑いを浮かべていた。
 そんな風に話していた私達は、とある場所の前で足を止める。
 そこは学園の敷地内にある教会の前だ。エムリーは話す場所として、ここを選んだのである。

「……エムリー」
「お姉様、ですかっ……」

 私達が中に入ると、エムリーがしかめっ面をして待っていた。
 彼女は、鋭い視線で私のことを睨みつけている。しかし、隣にいるマグナード様を見たことによって、その視線は少し和らいだ。

「これはどういうことでしょうか?」
「第三者の存在が、必要だと思ったのよ。冷静に話し合うためにもね……」
「冷静に話し合う? そのようなことが、できると思っているのですか!」

 エムリーは、床に紙を丸めたものを叩きつけていた。
 それがなんなのかは、すぐにわかった。恐らく両親から届いた手紙であるだろう。

「やはりあなたにも、手紙が届いていたようね?」
「ええ、届きましたとも。この忌々しい手紙がっ……」
「あなたにとっては、そうなのかもしれないわね」

 ここに来て最初に言葉を発してから、エムリーの様子はおかしい。
 いつもの彼女とは違う。かなり動揺しているようだ。
 最早彼女には、私に対して怒りを向ける余裕すらないように思える。手紙の内容によって、乱心しているだけといった所か。

「わ、私がお父様とお母様の子供ではないなんて……そんなのは嘘に決まっています!」
「……そのような嘘なんて、つくはずがないでしょう」
「嘘です! 嘘です!」

 エムリーの出自には、とある秘密が隠されていたらしい。
 どうやら彼女は、お母様の妹夫妻、つまり私にとっては叔母夫妻にあたる人物の娘であるそうなのだ。
 私達が物心つく前に亡くなった夫妻の子供を、お父様とお母様が引き取った。それがルヴィード子爵家の隠されていた事情なのである。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

妻の死で思い知らされました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:383pt お気に入り:2,366

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:724pt お気に入り:4,592

亡き妻を求める皇帝は耳の聞こえない少女を妻にして偽りの愛を誓う

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,958pt お気に入り:803

処理中です...