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6.歪な空気
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「お陰様で、早く終わりました。本当にありがとうございました、イルリア嬢」
「いえ、お役に立てたなら何よりです」
掃除が終わってから、私はマグナード様と話していた。
教室には、私と彼の二人きりである。故に必然的に、そうなってしまったのだ。
本来であれば話す関係性ではないのだが、状況的に仕方ない。そんなことを思いながら、私は自分の言動に気をつけながら話をしていた。
「……そういえば、イルリア嬢は最近大変なようですね?」
「え?」
「正確に言えば、あなたの妹君が、というべきでしょうか? 婚約破棄されたとか」
「ああ……」
そこでマグナード様は、エムリーのことに触れてきた。
学園という閉鎖的な空間は、噂が広まるのも早い。既にエムリーが婚約破棄された事実は、周知のものだと言ってもいいだろう。
ただ、それを指摘されるとは思っていなかった。デリケートな問題であるからだ。
「すみませんね。失礼なことはわかっています。しかしながら、あなたの耳に入れておきたいことがあるものですから」
「……マグナード様?」
意外と失礼な人、私はマグナード様のことを一瞬だけそう思った。
ただ、本人も失礼であることは自覚していたようだ。それはつまり、それでも言った理由があるということになる。
故に私は、身構えることになった。もしかしたら、また私に関する悪い噂などが流れており、マグナード様はそれを知らせてくれようとしているのかもしれない。
「婚約破棄されたこと自体は、同情されるべき事柄であると、僕は認識しています。エムリー嬢に問題があったかどうかによって、その判定は覆るものではありますが、現状エムリー嬢が可哀想だと言われることはおかしくないでしょう」
「ええ、それはそうだと思います」
「ただそれを加味しても、今の状況は歪です。空気がおかしい。エムリー嬢は、同情されすぎているような気がするのです」
マグナード様は、とても真剣な顔をしていた。
その表情から、私は考える。今、何が起こっているのかを。
「……エムリーが自ら同情されるように演出をしているかもしれないということでしょうか?」
「さて、それは僕にはわかりません。ただ今の状況は、あなたやエムリー嬢にとっていいものなのかと疑問を抱いていただけですから」
私の質問に対して、マグナード様は曖昧な言葉を返してきた。
考えてみれば、それは当然だ。彼はエムリーの本性を知っている訳ではない。裏で彼女が糸を引いているかどうかなんて、わかるはずはない。
要するにマグナード様は、今の状況が歪であることを言いたかっただけだ。それによって私達姉妹が何かしらの不利益を被るのではないかを懸念してくれているのだろう。
「ありがとうございます。その情報をいただけたのはありがたいです。私はエムリーの姉ですから、そういう風潮を知るのがいつも少し遅れてしまって」
「まあ、当事者の姉に何もかも言える人は少ないでしょうからね。僕のように無神経でなければ、できないことです」
「いいえ、マグナード様は誰よりも気遣いができる人だと思います」
「それは買い被りですよ……何はともあれ、何も起こらなければいいのですがね」
それだけ言ってマグナード様は、視線を教室の外に向けた。
何名かの生徒が、教室に入ろうとしている。つまりこれ以上彼とこの話をすることは、できないようだ。
「いえ、お役に立てたなら何よりです」
掃除が終わってから、私はマグナード様と話していた。
教室には、私と彼の二人きりである。故に必然的に、そうなってしまったのだ。
本来であれば話す関係性ではないのだが、状況的に仕方ない。そんなことを思いながら、私は自分の言動に気をつけながら話をしていた。
「……そういえば、イルリア嬢は最近大変なようですね?」
「え?」
「正確に言えば、あなたの妹君が、というべきでしょうか? 婚約破棄されたとか」
「ああ……」
そこでマグナード様は、エムリーのことに触れてきた。
学園という閉鎖的な空間は、噂が広まるのも早い。既にエムリーが婚約破棄された事実は、周知のものだと言ってもいいだろう。
ただ、それを指摘されるとは思っていなかった。デリケートな問題であるからだ。
「すみませんね。失礼なことはわかっています。しかしながら、あなたの耳に入れておきたいことがあるものですから」
「……マグナード様?」
意外と失礼な人、私はマグナード様のことを一瞬だけそう思った。
ただ、本人も失礼であることは自覚していたようだ。それはつまり、それでも言った理由があるということになる。
故に私は、身構えることになった。もしかしたら、また私に関する悪い噂などが流れており、マグナード様はそれを知らせてくれようとしているのかもしれない。
「婚約破棄されたこと自体は、同情されるべき事柄であると、僕は認識しています。エムリー嬢に問題があったかどうかによって、その判定は覆るものではありますが、現状エムリー嬢が可哀想だと言われることはおかしくないでしょう」
「ええ、それはそうだと思います」
「ただそれを加味しても、今の状況は歪です。空気がおかしい。エムリー嬢は、同情されすぎているような気がするのです」
マグナード様は、とても真剣な顔をしていた。
その表情から、私は考える。今、何が起こっているのかを。
「……エムリーが自ら同情されるように演出をしているかもしれないということでしょうか?」
「さて、それは僕にはわかりません。ただ今の状況は、あなたやエムリー嬢にとっていいものなのかと疑問を抱いていただけですから」
私の質問に対して、マグナード様は曖昧な言葉を返してきた。
考えてみれば、それは当然だ。彼はエムリーの本性を知っている訳ではない。裏で彼女が糸を引いているかどうかなんて、わかるはずはない。
要するにマグナード様は、今の状況が歪であることを言いたかっただけだ。それによって私達姉妹が何かしらの不利益を被るのではないかを懸念してくれているのだろう。
「ありがとうございます。その情報をいただけたのはありがたいです。私はエムリーの姉ですから、そういう風潮を知るのがいつも少し遅れてしまって」
「まあ、当事者の姉に何もかも言える人は少ないでしょうからね。僕のように無神経でなければ、できないことです」
「いいえ、マグナード様は誰よりも気遣いができる人だと思います」
「それは買い被りですよ……何はともあれ、何も起こらなければいいのですがね」
それだけ言ってマグナード様は、視線を教室の外に向けた。
何名かの生徒が、教室に入ろうとしている。つまりこれ以上彼とこの話をすることは、できないようだ。
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