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18.眠たくなるくらい

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 私はアトラとともに、侯爵家の庭に出て来ていた。庭にある大きな木の木陰で、二人日向ぼっこしているのだ。
 今日は、本当にいい天気である。本当に日向ぼっこ日和だ。

「温かいですね……」
「ええ、本当に。今日はいい天気ね」
「はい、なんだかとても穏やかな気持ちになれます」

 太陽の光を浴びながら、のんびりと過ごす。それは本当に、いい時間である。
 今日のような日なら、このまま眠ってしまいそうだ。ここは侯爵家の敷地である。多分安全だろうし、それもいいかもしれない。

「……」
「あら……」

 しかし私は、そこで隣にいるアトラが寝息を立てていることに気付いた。
 彼女は睡魔に勝てなかったらしい。この陽気だ。それは仕方ないだろう。
 ただ、そんな彼女を見ていると、私の眠気は一気になくなった。なんというか、目を覚ましておかなければならないという気になったのである。

「侯爵家の敷地内だからといって、安全とも限らないし……」

 私は、周囲を見渡してみた。
 侯爵家は、衛兵によって守られている。侵入者なんて、まず入ってこないだろう。
 だが、いざという時のためにも、私は起きておいた方が良さそうだ。そんな考えが、自然と心に浮かんできた。

「不思議なものね……」

 私は明らかに、周囲を警戒している。自分がそのように気を張っているということに、私は少し驚いていた。
 アトラという自分より弱い存在を、守らなければならない。そういう思いが、私の中にはあるようだ。

「親になるというのは、きっと難しいことなのでしょうね……」

 少し頭から抜けていたが、私は思い出していた。
 アトラの母親になるということは、大変なことなのだ。私は改めてそれを実感していた。

「……こんな所にいたのか」
「あっ……」

 そんな私は、聞き覚えのある声に体を起こすことになった。
 そこにいるのは、オルドア様だ。彼は少し複雑な表情をして、私とアトラを交互に見ている。
 やはり、日向ぼっこはみっともないことなのだろうか。そう思った私は、怒られる可能性を危惧して少し身構えてしまう。

「隣に座ってもいいのだろうか?」
「え、ええ、構わないと思います」
「それなら失礼する」

 そんな私の焦りを特に気にすることもなく、オルドア様は私と挟む形でアトラの隣に腰掛けた。
 彼は、穏やかな表情で眠る娘の顔を見ている。そんな彼の表情は、とても優しい。
 これがきっと、親の表情というものなのだろう。娘を愛している。オルドア様から、その気持ちがとてもよく伝わってきた。
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