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5.娘との対面

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 オルドア様と話して程なくしてやって来たアトラという少女は、こちらを警戒している様子だ。
 それは母親が記憶喪失だと聞かされて、緊張しているようにも見える。
 ただ、私はもう一つの可能性について考えていた。ペトラという女性が、良き母親ではなかったという可能性だ。

「えっと、あなたがアトラ……私の娘なのね?」
「……ええ、そうですけれど」
「あの……ごめんなさい、私何も覚えていなくて」

 私の言葉に、アトラは眉を寄せていた。
 その険しい視線に、私は少し怯んでしまう。
 彼女とどういう風に接したらいいのかがわからない。距離感がまったく掴めないのだ。

「記憶喪失だと聞きましたが、本当なんですか?」
「ええ、そうだけれど」
「それではお母様は、今まで私に対してどのように接していたのか、忘れたという訳ですか……」

 アトラの言葉には、怒りや呆れといった感情が籠っていた。
 それはつまり、私の嫌な予感が当たっていたということだろうか。
 少なくとも、アトラとペトラとの関係は良いものという訳ではなさそうだ。娘が母と対面して、まず怒るということは、そういうことであるだろう。

「……アトラ、よせ。記憶喪失だと言っただろう。母は何も覚えていないのだ」
「お父様……」
「今の母に何かを言うことは、恥ずべき行為だ。何も知らぬ者に……抵抗できない者に牙を向けるなど恥を知れ」
「わ、私は別に……」

 興奮していたアトラは、オルドア様の言葉によってその勢いを削がれた。
 なんというか、中々に厳しい言葉だ。言い過ぎではないだろうか。アトラの心情を考えると、この態度も仕方ないような気がするのだが。

「オルドア様、私なら大丈夫ですから、お気になさらず」
「なっ……」

 そこで私は、オルドア様を宥めることにした。
 するとそれに反応したのは、アトラの方だった。彼女は、目を見開いて驚いている。

「どうして……」
「……え?」
「もう、訳がわかりません!」

 それからアトラは、部屋から出て行ってしまった。
 仲が悪かった母の記憶喪失、その奇妙な状況に耐え切れなかったのだろう。父親も完全な味方という訳ではないし、逃げたくなるのも無理はない。

「……すまないな。お前とアトラの間にも、色々とあったのだ」
「いえ、私は別に……それよりも、アトラのことが心配です」
「そうか……今のお前は、そうなのか」

 アトラを心配する私に対して、オルドア様も微妙な反応をしてきた。
 どうやらペトラという女性は、かなり冷たい人間であったようだ。夫と娘の反応によって、私はそれを悟るのだった。
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