娘を悪役令嬢にしないためには溺愛するしかありません。

木山楽斗

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3.奇妙な現状

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「……ところで、私には何があったのかしら? 頭を打ったと聞いたけれど」
「あ、そうですね。それも説明しないといけませんよね」

 そもそもどうして私がこうなっているのか、それが私は気になっていた。
 メイド服の女性――というかメイドさんは、先程頭を打ったなどと言っていたはずである。
 頭を打つとは、大事だ。一体何があったというのだろうか。

「奥様は階段から転げ落ちたんです」
「階段から? それは大変ね……」
「大変って、奥様の話ですよ?」
「ああ、そうよね。でも、私は何も覚えていないから……」

 ペトラという侯爵夫人は、何かしらの事故によって頭を強く打ち、意識を失った。
 その彼女に、私の魂が乗り移ったということだろうか。そのようなことがあるとは思えないが、状況を考えるとそう思えてくる。

「どうして私は、階段から転げ落ちたのかしら?」
「それはよくわかっていないんです。恐らく、足を滑らせたのではないかと考えられていますが……」
「不注意があった、ということなのね。まあ、私が思い出さないといけないことなのでしょうけれど」
「無理はしないでくださいね。ゆっくりでいいんですから」

 前提として、ここは恐らく私が住んでいる世界とは違う世界だろう。部屋の様相は、そんな感じだ。現代というには発展していないが、過去というには発展し過ぎている。
 にわかには信じられないが、私の本能は不思議なくらいこの状況を受け入れていた。とりあえずその前提で、動くとしよう。

「さてと、とりあえず奥様も落ち着いたようですし、私はお目覚めしたことを皆さんに伝えてきますね」
「あ、ええ、そうしてもらえるのはもちろんありがたいけれど、大丈夫なのかしら? 私、何も覚えていないのだけれど」
「そのことも合わせて、報告しますから安心してください。それでは、失礼しますね」
「あ、ありがとう」

 メイドさんは非常に明るい笑顔を浮かべた後、部屋から去って行った。
 取り残された私は、これからのことを考える。夫のオルドアや娘のアトラと、どういう風に接するべきなのかを。

「妻も母も、私には荷が重すぎるわね……でも、本当のことを話して信じてもらえる訳もないし、心苦しいけれど記憶喪失で押し通していくしかないかしら?」

 私は私のことを妻や母だと思っている人達を、騙すことになってしまう。それはとても、心苦しいことであるが、本当のことを言っても異常者扱いされるのが関の山だ。非常事態であるため、その辺りは割り切らせてもらおう。
 とにかく私がやるべきことは、何があったかを突き止めることである。
 それは私にとっても、この体の持ち主であるペトラさんにとっても必要なことだ。お互いに元の生活に戻るためにも、私は情報を集めなければならない。
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