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1.目覚めた場所は

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 目を覚ました私は、周囲の状況に困惑していた。
 目の前に広がっているのは、明らかに私が住んでいた日本の部屋ではない。なんというか、メルヘンなお姫様のような部屋だ。
 どうして私は、そんな所にいるのだろうか。思い出せない。

「確か、会社に向かっていて……それから、倒れた?」

 なんとか思い出せたのは、直前に会社に向かっていたということである。
 その道中何かしらの原因で意識を失った私は、病院に運ばれてきたということだろうか。
 しかし、この部屋の様相はどう考えても病院ではない。私が知らないだけでこういう病院があるなんてことは、流石にあり得ないだろうし。

「……あれ?」
「うん?」

 そんなことを考えていた私は、部屋に突然入ってきた人物の姿に驚いていた。
 若い女性が身に纏っているのは、明らかにメイド服である。コスプレだろうか。それとも本物だろうか。とにかく、メイド服なんて初めて見る。
 そういう服の人が入ってきたということは、ここは病院ではなさそうだ。いや仮にこの状況で看護師の服を着た人が入ってきたとしても、病院だなんて思えないが。

「奥様、お目覚めになられたのですね?」
「……え?」

 メイド服の女性は、驚いたような顔をしておかしなことを言ってきた。
 私は確かに、先程目を覚ましたばかりではある。しかし奥様とはなんだろうか。私は結婚などしていないのだが。

「奥様、どうかされましたか?」
「あ、えっと、奥様、というのはどういうことかしら?」
「え?」

 私の言葉に、メイド服の女性は面食らったような表情をしている。それが気になりながらも、私はとある違和感を覚えていた。
 今、私の口は私の意思とは違う言葉を発していた。言ったことは確かに私が言おうと思っていたことなのだが、口が勝手に動いていたのだ。
 それに先程まで気付かなかったが、自分の声ではなかったような気がする。翻訳アプリでも通したかのように、私の言葉は変化していたのだ。

「ま、まさか、記憶喪失という奴ですか?」
「記憶喪失?」
「お、奥様は頭を打たれましたから、もしかしたらそうなのかもしれません。えっと、ここがどこで、あなたが誰かわかりますか?」
「……いいえ、わからないわ。よかったら、教えてもらえないかしら?」

 様々な違和感を覚えながらも、私はメイドさんの言葉に首を振った。
 本当は自分の名前などはわかっているが、ここはそれを説明するよりも、彼女から全てを聞く方が恐らくいい。とにかく情報が欲しいし、色々と教えてもらうとしよう。

「あなたの名前は、ペトラ・ウォルマー様と言います。ウォルマー侯爵の奥様で、ここはその侯爵家の屋敷なんです」
「侯爵……家?」

 メイド服の女性の説明に、私は固まっていた。
 彼女の説明に出て来る言葉の数々は、私にとって馴染みがないものである。
 そこで私はふと、部屋の中にあった鏡をしっかりと見た。そこに映っているのは、私とは似ても似つかない人物だった。
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