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11.部屋を訪ねて

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 私は、メリーナさんとともに父の部屋の前に立っていた。
 ここまで来たら、最早迷う必要などない。メリーナさんもいてくれるのだし大丈夫だ。私は自分にそう言い聞かせながら、ゆっくりと部屋の戸を叩いた。

「え?」
「……誰だ?」

 この段階では、まだ流石に二人も何が起こっているかはわかっていないだろう。中からは、少し浮つきながらも、平静なお父様の声が返ってきた。
 それに対して、私は一度深呼吸した。なんだか時間がゆっくりに感じられる。やはり私は臆病なようだ。まだこの場に立つことを恐れている。

「……ティセリアです」

 しかしそれでも、声は喉から出てくれた。
 メリーナさんの存在が、大きいのかもしれない。彼女の存在が、私に勇気を与えてくれているということだろう。
 そんなことを考えながら、私は中から返事が聞こえて来ないことに気付いた。中で二人が絶句しているということだろうか。

「……あれ?」

 あまり時間を与えるのは得策ではない。そう思った私はドアノブに手をかけてみた。
 すると、鍵がかかっていないということがわかった。お父様とイルーネは、思っていた以上に油断していたようである。
 ここに勝手に入って来る者などいないと思っていたのだろうか。そうでもなくても、鍵くらいはかけておくべきだ。いくらなんでも、不用心過ぎる。

「お父様、入ってもよろしいですね?」
「ティセリア、待て……」
「いいえ、入ります」

 一応声をかけたものの、特に待つつもりはなかった。
 私は、お父様とイルーネの浮気の証拠を掴みに来たのだ。あちらの準備ができていないというのは、むしろ都合が良いといえるかもしれない。
 そんなことを考えながら戸を開けてみると、思っていたよりも二人の姿は乱れていなかった。ただ周囲の状況から、ことが起こったのは明らかだ。

 それによって、私はまた多少の吐き気を覚えた。
 しかし今は、目の前に問題に対処しなければならない。私は気を強く持って、お父様とイルーネの方を見据えた。
 二人は、気まずそうな顔をしている。それは当然のことだろう。こんなことをしておいて、気まずくない訳がない。

 しかしそれなら、そもそもこんなことはしないで欲しかった。
 お父様は一体どうして、親子程年の離れた娘に手を出したのだろうか。それも私の親友に。
 イルーネはそんなお父様の、どこに惚れ込んでいるというのだろうか。私の相談に乗ってくれていたこともあって、お父様の色々な面を知っていたというのに。

 私の心の中には、感情が渦巻いていた。
 ただ一つ決定的なことは、二人と今までのような関係ではいられないということだ。私は今回の件に、しっかりと対処していかなければならない。
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