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 私は、ゼラーム様と対面していた。
 どこかから話を聞きつけたのか、ウルグスも一緒である。これから何を言われるかわからないので、それは心強い。

「ゼラーム様、この度は誠に申し訳ありませんでした」
「我々の不手際で、婚約の話を取り消してしまい、本当にすみませんでした」

 私とウルグスは、ゆっくりと頭を下げた。
 婚約に関する話は、完全にこちらの不手際によるものだ。それについては、本当に申し訳ないと思っている。
 そもそも、イルーアはその婚約を知っていたのだろうか。知っていたとしたら、さらに質が悪いのだが、残念ながら知っていた方が自然である。

「……ああ、まあ、そうだな」
「え?」
「あれ?」

 私の謝罪に対して、ゼラーム様の反応はとても鈍かった。
 なんというか、少し気まずそうなのである。
 文句を言いに来たなら、もう少し違う態度であるはずだ。例えば、威張るとか怒るとか、そういう態度になるだろう。
 もしかしたら、ゼラーム様は文句を言いに来た訳ではないのかもしれない。彼の反応を見ていると、そう思えるのだ。

「えっと……本日は、どのようなご用件で?」
「ああ、いや、まあ、その話であることは間違いないんだが……」
「やはり、婚約の件について、色々と言いに来たのですか?」
「いや、別に文句を言いに来た訳ではないんだが……」
「え? そうなのですか?」

 私もウルグスも、ゼラーム様の言葉に少し驚いていた。
 やはり、彼は文句を言いに来た訳ではなかったようだ。ただ、イルーアの婚約破棄に関する話であることは確からしい。
 しかし、私達にその婚約に関する話をしてもらっても困る。そういうことは、お父様や本人に言ってもらいたいものだ。

「えっと、私やウルグスは、あなたとイルーアの婚約についてよく知りません。できれば、本人か父と話してもらいたいのですが……」
「いや、あんたじゃなければならないというか……まあ、色々と事情があるのさ」
「事情ですか……」

 ゼラーム様は、なんだかとても気まずそうである。 
 よくわからないが、彼にも色々と事情があるようだ。
 なんというか、とても面倒なことになりそうである。どうして、私がそんなことに巻き込まれなければならないのだろうか。
 いや、その理由がわからない訳ではない。だが、別に私は何もしていないので、複雑な気持ちなのである。

「それで、どのような話なのでしょうか?」
「まあ、結論から話させてもらうが、実は俺はあんたと婚約したいんだ」
「……え?」

 ゼラーム様の言葉に、私は驚いた。
 やはり、とても面倒なことになっているようだ。
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