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 婚約破棄されてから、早いもので三日が経っていた。
 私の処遇に特に進展はなく、未だ何も決まっていない。
 何も決まっていないので、私は特にやることもなくゆっくりと過ごしている。穏やかな日常というのも、案外悪くないものだ。

「失礼します」
「あら……入っていいわよ」

 部屋で過ごしている私に、戸を叩く音と女性の声が聞こえてきた。
 その声は、メイドのリルティナの声だ。もしかして、私の婚約に関する話に進展があったのだろうか。

「アルネア様、失礼します」
「リルティナ? どうかしたの?」
「実は、お嬢様に会いたいという客人が来ているのです」
「客人?」

 私の予想は、大きく外れていたようだ。未だ、婚約に関する進展はないらしい。
 そのことは、少し残念である。できれば、早く話がまとまって欲しいのだが、やはり難しいのだろうか。

「それで、客人というのは誰なの?」
「シャスキン家のご令息であるゼラーム様です」
「シャスキン家……え?」

 客人の名前を聞かされても、私はよくわからなかった。
 その人物の名前は知っている。だが、私を訪ねて来る意味がわからないのだ。
 家同士の付き合いはあるが、彼と個人的に付き合いがある訳ではない。どうして、私なのだろうか。

「意味がわからないのだけれど……どうして、ゼラーム様は私を?」
「それは、私にはわかりません。ただ、もしかしたら、シャスキン家とラルファン家との間にあった話が関係しているのかもしれません」
「え? 何かあったの?」

 リルティナの言葉に、私は少し驚いた。
 シャスキン家とラルファン家の間に何かあったなど、私は知らない。だが、何かあったようである。
 しかし、何かあったとして、何故私が呼び出されるのだろうか。それも、よくわからないものである。

「実は、まだ正式に決まっていなかったようですが、イルーア様とゼラーム様が婚約するという話が進んでいたのです」
「え? そんな話が?」
「ええ、ただ、今回の件があったため、その話は白紙になりました。それが関係しているのかもしれません」
「なるほど……」

 私は知らなかったが、ゼラーム様はイルーアと婚約する予定だったようだ。
 それがなくなって、このラルファン家に文句を言いに来た。それは、わからない訳ではない。

「でも、どうして私に?」
「それは……わかりません」

 ただ、それでも私を呼び出している意味がわからなかった。
 文句があるとしても、それは私に言うべきことではないだろう。
 もしかして、八つ当たりなのだろうか。私が婚約破棄したせいで、婚約できなくなったなどと言われるのなら、それはとてもひどいことである。
 だが、逃げる訳にもいかない。貴族が訪ねて来たのだ。事前に言われていないとはいえ、対応しないというのは通らないだろう。
 こうして、私はゼラーム様に対応することになるのだった。
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