2 / 16
2
しおりを挟む
私は、お父様の執務室に向かっていた。
「お姉様、お待ちください」
「え?」
そんな私に、後ろから声をかけてくる者がいた。
事件の当事者であり、私の妹でもあるイルーアだ。
彼女が、私を追いかけて来るとは思っていなかった。だが、考えてみれば、イルーアは特に何も話していない。何か言いたいことがあったとしても、おかしくはないだろう。
「何か話したいことでもあるの?」
「……お姉様に、謝っておこうと思ったのです」
「謝る?」
イルーアの言葉や態度に、私は少しだけ怒りを覚えた。
彼女は、とても軽率な行動をしている。それを自覚しているのだろうか。
今ここで私に謝って、それで全てが済む訳ではない。色々な人に迷惑をかけることを理解して、そのような表情をしているのだろうか。
「お姉様の婚約者を奪って、申し訳ありませんでした」
「……あなたは、自分の行動を理解しているの?」
「理解しているから、謝っているのです」
質問に対する返答を聞いて、私は理解した。この妹は、何も理解できていないのだと。
彼女の中には、ブレギム様と結ばれるという思考しかないのだろう。その嬉しそうな態度に、それが現れている。
「きちんと理解できているなら、こんなことはしないで欲しかったわ」
「お姉様には、わからないでしょうね」
「え?」
そこで、イルーアは表情を変えた。少し険しい表情になったのだ。
しかし、どうして私がそのような顔を見せられなければならないのだろうか。非はイルーアにあるのだから、せめて表面上だけは取り繕ってもらいたいものである。
「お姉様は、とても冷静で理性的な人間です。でも、人間はそれだけでは決していられません。必ず、感情というものを求めてしまうものなのです」
「何が言いたいの?」
「ブレギム様も、そういうお姉様だからこそ、結ばれたくないと思ったのではないでしょうか? あなたが感情を見せてくれないから、気味悪く思った。私には、そう思えてならないのです」
「……」
イルーアの言葉は、ある程度理解できない訳ではなかった。
だが、だからといって、婚約破棄してもいいとは決してならないだろう。
そんな風に感情に従って生きていれば、貴族として生きていけるはずはない。理想ばかり見て、現実を見ないのは非常に馬鹿らしいことではないだろうか。
「話はそれだけかしら? それなら、私は行かせてもらうわ。早く、お父様と今後のことを話さないといけないのよ」
「ええ……これで、終わりです」
「それなら、私はこれで失礼するわ」
それだけ言って、私はゆっくりと歩き始めた。
そんな私の背中に視線を向けて来るイルーアは、一体何を思っているのだろうか。
「お姉様、お待ちください」
「え?」
そんな私に、後ろから声をかけてくる者がいた。
事件の当事者であり、私の妹でもあるイルーアだ。
彼女が、私を追いかけて来るとは思っていなかった。だが、考えてみれば、イルーアは特に何も話していない。何か言いたいことがあったとしても、おかしくはないだろう。
「何か話したいことでもあるの?」
「……お姉様に、謝っておこうと思ったのです」
「謝る?」
イルーアの言葉や態度に、私は少しだけ怒りを覚えた。
彼女は、とても軽率な行動をしている。それを自覚しているのだろうか。
今ここで私に謝って、それで全てが済む訳ではない。色々な人に迷惑をかけることを理解して、そのような表情をしているのだろうか。
「お姉様の婚約者を奪って、申し訳ありませんでした」
「……あなたは、自分の行動を理解しているの?」
「理解しているから、謝っているのです」
質問に対する返答を聞いて、私は理解した。この妹は、何も理解できていないのだと。
彼女の中には、ブレギム様と結ばれるという思考しかないのだろう。その嬉しそうな態度に、それが現れている。
「きちんと理解できているなら、こんなことはしないで欲しかったわ」
「お姉様には、わからないでしょうね」
「え?」
そこで、イルーアは表情を変えた。少し険しい表情になったのだ。
しかし、どうして私がそのような顔を見せられなければならないのだろうか。非はイルーアにあるのだから、せめて表面上だけは取り繕ってもらいたいものである。
「お姉様は、とても冷静で理性的な人間です。でも、人間はそれだけでは決していられません。必ず、感情というものを求めてしまうものなのです」
「何が言いたいの?」
「ブレギム様も、そういうお姉様だからこそ、結ばれたくないと思ったのではないでしょうか? あなたが感情を見せてくれないから、気味悪く思った。私には、そう思えてならないのです」
「……」
イルーアの言葉は、ある程度理解できない訳ではなかった。
だが、だからといって、婚約破棄してもいいとは決してならないだろう。
そんな風に感情に従って生きていれば、貴族として生きていけるはずはない。理想ばかり見て、現実を見ないのは非常に馬鹿らしいことではないだろうか。
「話はそれだけかしら? それなら、私は行かせてもらうわ。早く、お父様と今後のことを話さないといけないのよ」
「ええ……これで、終わりです」
「それなら、私はこれで失礼するわ」
それだけ言って、私はゆっくりと歩き始めた。
そんな私の背中に視線を向けて来るイルーアは、一体何を思っているのだろうか。
16
お気に入りに追加
2,134
あなたにおすすめの小説
【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります
禅
恋愛
妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。
せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。
普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……
唯一の味方は学友のシーナのみ。
アリーシャは幸せをつかめるのか。
※小説家になろうにも投稿中
聖女の代役の私がなぜか追放宣言されました。今まで全部私に仕事を任せていたけど大丈夫なんですか?
水垣するめ
恋愛
伯爵家のオリヴィア・エバンスは『聖女』の代理をしてきた。
理由は本物の聖女であるセレナ・デブリーズ公爵令嬢が聖女の仕事を面倒臭がったためだ。
本物と言っても、家の権力をたてにして無理やり押し通した聖女だが。
無理やりセレナが押し込まれる前は、本来ならオリヴィアが聖女に選ばれるはずだった。
そういうこともあって、オリヴィアが聖女の代理として選ばれた。
セレナは最初は公務などにはきちんと出ていたが、次第に私に全て任せるようになった。
幸い、オリヴィアとセレナはそこそこ似ていたので、聖女のベールを被ってしまえば顔はあまり確認できず、バレる心配は無かった。
こうしてセレナは名誉と富だけを取り、オリヴィアには働かさせて自分は毎晩パーティーへ出席していた。
そして、ある日突然セレナからこう言われた。
「あー、あんた、もうクビにするから」
「え?」
「それと教会から追放するわ。理由はもう分かってるでしょ?」
「いえ、全くわかりませんけど……」
「私に成り代わって聖女になろうとしたでしょ?」
「いえ、してないんですけど……」
「馬鹿ねぇ。理由なんてどうでもいいのよ。私がそういう気分だからそうするのよ。私の偽物で伯爵家のあんたは大人しく聞いとけばいいの」
「……わかりました」
オリヴィアは一礼して部屋を出ようとする。
その時後ろから馬鹿にしたような笑い声が聞こえた。
「あはは! 本当に無様ね! ここまで頑張って成果も何もかも奪われるなんて! けど伯爵家のあんたは何の仕返しも出来ないのよ!」
セレナがオリヴィアを馬鹿にしている。
しかしオリヴィアは特に気にすることなく部屋出た。
(馬鹿ね、今まで聖女の仕事をしていたのは私なのよ? 後悔するのはどちらなんでしょうね?)
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
身勝手な婚約破棄をされたのですが、第一王子殿下がキレて下さいました
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢であるエリーゼは、第ニ王子殿下であるジスタードに婚約破棄を言い渡された。
理由はジスタードが所帯をを持ちたくなく、まだまだ遊んでいたいからというものだ。
あまりに身勝手な婚約破棄だったが、エリーゼは身分の差から逆らうことは出来なかった。
逆らえないのはエリーゼの家系である、ラクドアリン伯爵家も同じであった。
しかし、エリーゼの交友関係の中で唯一の頼れる存在が居た。
それは兄のように慕っていた第一王子のアリューゼだ。
アリューゼの逆鱗に触れたジスタードは、それはもう大変な目に遭うのだった……。
第一夫人が何もしないので、第二夫人候補の私は逃げ出したい
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のリドリー・アップルは、ソドム・ゴーリキー公爵と婚約することになった。彼との結婚が成立すれば、第二夫人という立場になる。
しかし、第一夫人であるミリアーヌは子作りもしなければ、夫人としての仕事はメイド達に押し付けていた。あまりにも何もせず、我が儘だけは通し、リドリーにも被害が及んでしまう。
ソドムもミリアーヌを叱責することはしなかった為に、リドリーは婚約破棄をしてほしいと申し出る。だが、そんなことは許されるはずもなく……リドリーの婚約破棄に向けた活動は続いていく。
そんな時、リドリーの前には救世主とも呼べる相手が現れることになり……。
婚約者が幼馴染のことが好きだとか言い出しました
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のテレーズは学園内で第6王子殿下のビスタに振られてしまった。
その理由は彼が幼馴染と結婚したいと言い出したからだ。
ビスタはテレーズと別れる為に最悪の嫌がらせを彼女に仕出かすのだが……。
結局、私の言っていたことが正しかったようですね、元旦那様
新野乃花(大舟)
恋愛
ノレッジ伯爵は自身の妹セレスの事を溺愛するあまり、自身の婚約者であるマリアとの関係をおろそかにしてしまう。セレスもまたマリアに対する嫌がらせを繰り返し、その罪をすべてマリアに着せて楽しんでいた。そんなある日の事、マリアとの関係にしびれを切らしたノレッジはついにマリアとの婚約を破棄してしまう。その時、マリアからある言葉をかけられるのだが、負け惜しみに過ぎないと言ってその言葉を切り捨てる。それが後々、自分に跳ね返ってくるものとも知らず…。
私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。
Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。
そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。
二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。
自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる