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 貴族として生まれたからには、婚約者は自分では選べない。親が決めた人と婚約することになるからだ。
 家の利益のために婚約させられる。それが、貴族として生まれた者の定めなのだ。

 それに、反発しようとする者もいるだろう。自分が決めた人と婚約したい。そういう気持ちを持つ人もいるはずである。
 その気持ちが、わからない訳ではない。だが、それは正しくないと私ははっきりと断言できるだろう。

 私という人間は、そういう人間なのだ。
 人によっては、冷たい人間だと思われるかもしれない。だが、そのように考えられるのが私なのである。

 だから、私は婚約者に対して不満を述べたことはない。
 別に仲が良い訳ではないが、特に反発することもなかったはずである。

「ブレギム様……」
「イルーア……」

 それなのに、私の婚約者であるブレギム・ゼパルド様は浮気をしていた。
 それも、私の妹のイルーアとである。
 屋敷の裏で抱き合う彼等を見つけた時には目を疑った。だが、残念ながら、これは現実であるようだ。

 流石の私も、これには怒りを覚えずにはいられなかった。
 今までも不満はあったが、まともな人だと思っていた。だが、彼はどうしようもない人間であったようだ。

 しかし、私はそれでも彼との婚約については維持しておくべきだと思っていた。
 例え、浮気していたとしても、彼との婚約はラルファン家に利益をもたらす婚約である。私が、わざわざそれを破棄する理由はないのだ。

「……君か」
「お、お姉様……?」
「……」

 だが、間が悪いことに私は彼に見つかってしまった。 
 見なかったことにしたかったのだが、これでは彼と議論するしかなくなってしまう。

 それにしても、彼は何を考えているのだろうか。
 浮気現場を見られたというのに、まったく驚いていない。その態度も、私の神経を逆なでしてくるものだ。

「いい機会だ。君に、言いたいことがある」
「言いたいこと? なんでしょうか?」
「君との婚約を破棄したい。僕は、君のようなつまらない人間と結婚することに耐えられそうにない」
「……」

 ブレギム様がかけてきたのは、ひどい言葉だった。
 しかし、その言葉には納得できる部分もある。確かに、私はつまらない人間だと思うからだ。
 だが、それで婚約を破棄することが許されるということではない。彼が述べていることは、とても身勝手なことだ。

「正気ですか?」
「僕は、熱烈な恋がしたい。彼女となら、それが実現するのさ」
「ブレギム様……」

 ブレギム様は、非常に個人的な感情で婚約を破棄してきた。
 その身勝手さに、私はとても怒っていた。いつもなら、その怒りは抑え込めるはずだ。
 しかし、私はその怒りを何故か抑えられなかった。感情に任せてはいけない。そう思いながら、私の口は勝手に開いていく。

「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」
「うっ……」

 私は、今まで出したことがないような声で怒っていた。
 今まで我慢してきたものが、一気に溢れ出してきたのかもしれない。
 言葉を出してからすぐに、私は恥ずかしくなっていた。こんな男に対して、声を荒げる必要などなかった。感情を動かすだけ無駄なのだから、黙って去ればよかったのだ。

 そう思って、私は二人に背を向ける。
 これ以上、彼等と話していても時間の無駄である。
 起こってしまったことは、仕方がないことだ。私が今やるべきは、今後どうするかを決めることである。
 
 という訳で、私はお父様の元に向かうことにした。
 今後のことを決めるにあたって、両親の意見は絶対に必要だからだ。
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