上 下
5 / 24

5.王子の訪問

しおりを挟む
 有事の際にも動けるように、親衛隊は基本的に王城で暮らしている。
 王城というだけあって、私が暮らしている部屋もとても豪華だ。ただ、別にここでの暮らしに未練はない。王城での暮らしは、まったく心が安らぐものではなかったからだ。

「まあ、いくら豪華でも仕事場だもんね。心が落ち着くなんて、あるはずがない訳だし……」

 クビを言い渡されたため、私は荷物をまとめていた。
 これからどうするかは、考え中である。とりあえず故郷に帰ろうと思っているが、それからどうするかはまだ決めていない。

「……失礼します」
「え?」
「ブライトです」

 私が色々と考えていると、部屋に訪ねて来る人がいた。
 その人物の名前を聞いて、私は少し驚く。第二王子のブライト様だったからだ。

「今、よろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ入ってください。散らかっていますけれど……」
「それでは、失礼します」

 私が許可を出すと、部屋に一人の男性が入ってきた。
 その人物は、紛れもなくこの国の第二王子であるブライト様だ。

「ブライト様、どうされたのですか? こんな所に訪ねて来るなんて……」
「……あなたのクビに関する話を聞きました。ファルティアがまた身勝手なことをしたのですね?」
「……ええ、そういうことになりますね」

 ブライト様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 彼と妹のファルティアの仲は悪い。真っ直ぐな性格をしている第二王子は、わがままな妹に手を焼いているのだ。
 故に彼は、ここに来たのだろう。妹の失態の謝罪に来た。彼ならば、そうしてもおかしくないと思える。

「申し訳ありません。不出来な妹が……」
「……ブライト様の責任という訳ではありませんよ」
「いいえ、僕にも責任の一端はあります。ファルティアの好きにさせてしまっている訳ですからね」

 ブライト様は、苦い顔をしていた。
 第一王女でかつ聖女であるファルティア様の権力は、かなり大きなものだ。それは時に、第一王子や第二位王子をも凌駕する。
 特に今回の件などは、聖女に関する人事だ。恐らく、ブライト様ではどうにもできないことなのだろう。

「……私の件に関しては、まだ良いですが、このままでいいかというと、そうではないでしょうね。ファルティア様を自由にさせていると、いつしかこの国は破綻しかねません」
「仰る通りですね。僕も兄上も、このままではいけないと思っています」

 ファルティア様の気分次第で人事を動かせるというのは、健全な状態であるとは言い難い。それはこの国に暮らす国民の一人として、改善してもらいたいものだ。
 それは、ブライト様やその兄であるフォーマン様に頑張ってもらうしかない。彼らがファルティア様を打ち倒してくれるといいのだが。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】消えた一族

BL / 完結 24h.ポイント:2,932pt お気に入り:861

浮気の認識の違いが結婚式当日に判明しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:633pt お気に入り:1,228

悪役令嬢の神様ライフ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:363

あなたに恋した私はもういない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:3,047

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:555

処理中です...