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9.低い自己評価

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 私は、ヴィクトール様の部屋を訪ねていた。
 とにかく彼と話しておいた方が良い。そう思って訪ねた私を、彼は一応受け入れてくれた。
 しかし、その表情は先程から明るいものであるとは言い難い。ヴィクトール様が私の訪問を快く思っているかは微妙な所だ。

「……それで、何の用だ?」
「少しお話がしたいと思いまして」
「話? あなたとする話など、特にないと思っているが」
「そのようなことはありません。色々とありますよ」

 ヴィクトール様が、私のことを思ってくれていることは、わかっている。
 風邪を引いた時、彼は必死の形相で私の部屋に来てくれた。彼は人を思いやれる人なのだ。きっと今だって、私のことを考えてくれている。
 ただ、それは前妻との関係によって、少し歪んでしまったのだろう。彼は人を遠ざけることが、相手にとって良いことだと思い込んでいるのだ。

 一人の人間の死というものによって、それは彼の中に芽生えた考えなのだろう。
 それを取り除くことは、簡単ではない。何せ人一人の命に釣り合う程ものなど、ある訳がないからだ。
 彼の心を開くためには、こちらがずっと歩み寄りたいという感情を出していく必要がある。それはきっといつかは、彼にも伝わってくれるはずだ。

「……あなたは、俺のことを買い被っているのかもしれないな」
「え?」
「俺は優れた人間という訳ではない。今は表面上しか接していないが故にわからないのかもしれないが、俺はいつかあなたを傷つける」

 ヴィクトール様の言葉に、私は目を丸めていた。
 彼の自己評価の低さというものは、どうやら筋金入りであるらしい。
 前妻であるレスカティア様は、どれだけひどい言葉をかけたのだろうか。明らかに精神的に摩耗しているヴィクトール様を見ていると、私の心も痛くなってくる。

「ヴィクトール様、あなたは……あなたは、私を傷つけるような人ではありません」
「何?」
「お見舞いに来て下さった時、私はあなたから優しさというものをひしひしと感じました。それがきっと、元来のあなたなのだと思います。あなたは傷つける所か、人を癒せる人です」

 私の言葉に、今度はヴィクトール様が目を丸めていた。
 しかしながら、これは紛れもない私の本心である。彼という人間と、もっと話がしたい。私はそれを望んでいる。
 だけど、そんな私に対して、ヴィクトール様はゆっくりと首を振ってみせた。それは、拒絶というものを表している。彼はどこまでも、私との間に壁を作っておくつもりであるらしい。
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