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8.前妻のこと

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「レスカティア様は、どんな人だったの?」
「端的に言ってしまえば、わがままな人ですかね?」
「わがまま……」
「ええ、自分勝手な人でしたね。私はそういう人が嫌いですから、馬が合いませんでしたよ。アムリアお義姉様となら、上手くいくような気がしますが……」

 エフェリア嬢は、自分のことを結構棚に上げてレスカティア様のことを批判した。
 それは結構重要な情報である。前妻である彼女の人柄というものは、今のヴィクトール様が形成された理由になり得るからだ。

「ヴィクトール様は、そんなレスカティア様と分かり合おうとしていたのかな?」
「おや、よくわかりましたね。実の所そうなんです。お兄様は愚直な人ですからね。人格が捻じ曲がっているレスカティアお義姉様とも交流しようとしていました。だけど、それを彼女は跳ねたんです。容赦のない罵倒の言葉をかけて、お兄様を傷つけました」

 エフェリア嬢は、先程までとは異なり冷たい目をしていた。兄妹だけあって、その目はヴィクトール様とそっくりである。
 どうやら、先程の自分のことを棚に上げた発言は彼女なりの冗談だったようだ。今の方が、レスカティア様に対する侮蔑の感情がよく伝わってくる。つまり、こちらが本気ということなのだろう。

「今のヴィクトール様が、私との間に壁を作っているのは、それが理由だったんだね」
「壁を作っているんですか?」
「あ、うん。知らなかったの?」
「ええ、私はこの部屋に引きこもっていますからね。ほら、今までだって顔を合わせなかったじゃないですか」
「それはそうだね」

 私は、エフェリア嬢の言葉に思わず笑みを浮かべていた。
 彼女という人間は、極めて明るい人間である。引きこもっていると聞いていたので、もっと大人しいものなのかとか思っていたが、そうでもないらしい。
 彼女自身も言っていた通り、これなら義理の姉妹として上手くやっていけそうだ。問題は、その前提となるヴィクトール様のことなのだが。

「教えてくれてありがとう。お陰でこれからどうするべきなのか、少しだけわかったような気がする」
「アムリアお義姉様は、お兄様と分かり合いたいと思っているのですか?」
「え? あ、うん。そうだね。そうかもしれない」
「そこまでする必要なんてないのかもしれませんよ。貴族としては、割り切った関係でも良いのですから」
「それは、そうだよね。でも私は、ヴィクトール様が良い人だって知っているから、できることなら一緒に笑い合う関係でいたいかな……」
「……私で良ければ、いつでも力になりますよ。どうか頑張ってください」

 少し悲しそうな表情で、エフェリア嬢は私のことを激励してくれた。
 やはり彼女も、兄に立ち直ってもらいたいと思っているのだろう。その表情からは、そんな感情が読み取れた。
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