何も知らない愚かな妻だとでも思っていたのですか?

木山楽斗

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50.幸せな未来へ

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 私は、ソルーガと話し合うことになった。
 彼との婚約。それは、とても重要なことだ。しっかりと話し合わなければならない。

「ソルーガ、その……」
「姉貴、正直な話をしてもいいか?」
「え、ええ、それはもちろん」

 ソルーガの言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 もちろん、建前を話す必要なんてない。私達は、腹を割って話すだけである。

「今回の婚約、俺は受け入れようと思っている」
「え?」

 そんなソルーガから飛んできたのは、意外な言葉だった。
 婚約を受け入れる。まさか、彼からそう言われるとは思っていなかった。

「俺は、姉貴のことを大切に思っている。それはもちろん、姉としての感情もある。だが、それ以上の感情もきっと俺の中にはある」
「……そうなの?」
「結構複雑なのさ、俺の心の中は。とにかく、俺は姉貴には幸せになってもらいたい。だが、ラウグスの件で痛感した。世の中にはいい奴が大勢いるが、悪い奴もいる。そのどちらと姉貴が結婚するかなんてわからない」
「それは……」
「それなら、俺自身が姉貴を幸せにすればいい。そう思ったのさ」

 ソルーガは、真っ直ぐな目でそのようなことを言ってきた。
 彼は、私のことをずっと助けてくれた。そこには、今述べたような思いがあったようだ。
 それは、私も同じである。ソルーガのことは、弟としてはもちろん、それ以上に大切なものであると認識していた。
 思えば、私達はずっと家族として絆を育んできた。その絆というものは、きっとはっきりとした言葉では言い表せない愛をお互いの間に芽生えさせていたのだろう。

「……正直、私も同じような気持ちよ」
「……そうなのか?」
「ええ、あなたと夫婦になることになっても嫌ではないわ。むしろ、嬉しいくらい……だって、あなたがどれ程素晴らしい人であるかということを、私はよく知っているもの」
「……そうか」

 私とソルーガは、お互いに笑い合った。
 私達の間には、確かに愛がある。
 それは、家族としての愛なのだろう。ただ、姉と弟とは少し違うものだったのかもしれない。明確には言い表すことができないその関係が、一体なんなのかはまだわからない。
 だが、一つだけ明確なことがある。それは、私とソルーガが手を取り合えることだ。

 私は、不幸な結婚によって長らく振り回されることになった。
 これから、私はその失っていた時間を取り戻せるくらい幸せになれるだろう。
 そんなことを考えながら、私はソルーガの手を握るのだった。
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みんなの感想(15件)

agi21
2022.07.08 agi21

1でセリネアが、執事に対してアルリッドと言ってますが
2以降はウォルリッドになっているのは誤字なのか、あだ名なのかどっちでしょう

浮気相手アルトアと被るから途中から変更した感じですかね?

木山楽斗
2022.07.08 木山楽斗

ご指摘ありがとうございます。
1話のは誤字です。
仰る通りの理由で変更しました。

解除
杜野秋人
2022.06.19 杜野秋人

最新話、「警察に追放することは躊躇ってはいませんでしたし」というセリフの部分、追放(ついほう)ではなく通報(つうほう)ですかね?あと前話も一応確認しましたが、「躊躇っていた」のほうが正しいかと。
ちなみに「警察に追放」はもう1ヶ所あります。修正お願いします(^_^;

木山楽斗
2022.06.19 木山楽斗

ご指摘ありがとうございます。
修正させていただきます。
色々と間違ってしまい、申し訳ありません。

解除
Vitch
2022.06.13 Vitch

アルトアは腰の神経でも刺された?

木山楽斗
2022.06.13 木山楽斗

感想ありがとうございます。
その辺りのことは、ご想像にお任せします。

解除

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