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45.数々の愚行
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「男爵は、一体何をしたのですか?」
「アルトア嬢は、先の事件で入院していますよね? 彼は、彼女に見舞金を送ったのです」
「借金を返さずに、ですか?」
「ええ、彼はこの段階においても、アルトア嬢に入れ込んでいたのです」
アルトアは、ステイリオ男爵から見舞金を貰ったことなど言っていなかった。
彼女も、真実を全て語っていたという訳ではないようだ。
しかし、男爵のその行動は最低である。夫人のお金を勝手に使い、借金も返さず、別の女性に貢ぐなんて、どういう神経をしているのだろうか。
「私がそれを知ったのは、つい先程のことです。パリドットさん、その辺りの事情に関する説明をしていだけますか?」
「ええ、もちろんです」
そこで、夫人はパリドットさんに話を振った。
ここからは、彼が語る番であるようだ。
「旦那様の愚行に関しては、先程奥様が述べた通りです。彼は、アルトア嬢に対して入れ込んでいました。彼は、奥様のお父上が残した遺産に手を染めていきました。しかし、それだけではなかったのです。彼は、奥様の生命保険まで、手を染めようとしていたのです」
男爵は、本当に邪悪な人間だったらしい。
夫人は亡くなったということにして、生命保険までもらおうとするなんて、なんと非道なことだろうか。
「その時、私達も思い至ったのです。奥様が階段から転げ落ちたのは、旦那様の仕業であったということに」
パリドットさんは、険しい顔をしていた。
彼の怒りが、その表情から伝わってくる。
「我々使用人は、そんな旦那様の行いに憤りを覚えずにはいられませんでした。奥様が、どれだけ素晴らしいお方であるか、私達は知っていました。そんな奥様に対する数々の非道……許すことなどできませんでした」
「……それで、屋敷ぐるみで男爵を亡き者にしたということですか?」
「……ええ、迷いはありませんでした。はっきりと申し上げますが、私達にとって大切なのは、奥様でしたから」
ディルギン氏の言葉に対して、パリドットさんははっきりと答えた。
やはり、ステイリオ男爵は既に亡くなっているようだ。この屋敷の人々によって、彼は命を奪われたのである。
「ステイリオ男爵のやり方には、私も憤りを覚えずにはいられません。しかしながら、彼の命を奪う必要があったのでしょうか?」
「旦那様がいる限り、奥様はここに戻って来ることができません。もちろん、他に生きる道がなかったという訳でもないでしょう? ですが、悪鬼の行いで、何故奥様が茨の道を進まなければならないのでしょうか?」
「なるほど……」
パリドットさんの怒りは、相当なものだったようだ。
恐らく、ステイリオ男爵という人間は、あまりいい人とはいえなかったのだろう。
なんとなく、それが伝わってきた。もしも、彼に評価するべき点があったとしたら、使用人達にここまで結託されることなんて、なかったはずだからだ。
「アルトア嬢は、先の事件で入院していますよね? 彼は、彼女に見舞金を送ったのです」
「借金を返さずに、ですか?」
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アルトアは、ステイリオ男爵から見舞金を貰ったことなど言っていなかった。
彼女も、真実を全て語っていたという訳ではないようだ。
しかし、男爵のその行動は最低である。夫人のお金を勝手に使い、借金も返さず、別の女性に貢ぐなんて、どういう神経をしているのだろうか。
「私がそれを知ったのは、つい先程のことです。パリドットさん、その辺りの事情に関する説明をしていだけますか?」
「ええ、もちろんです」
そこで、夫人はパリドットさんに話を振った。
ここからは、彼が語る番であるようだ。
「旦那様の愚行に関しては、先程奥様が述べた通りです。彼は、アルトア嬢に対して入れ込んでいました。彼は、奥様のお父上が残した遺産に手を染めていきました。しかし、それだけではなかったのです。彼は、奥様の生命保険まで、手を染めようとしていたのです」
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彼の怒りが、その表情から伝わってくる。
「我々使用人は、そんな旦那様の行いに憤りを覚えずにはいられませんでした。奥様が、どれだけ素晴らしいお方であるか、私達は知っていました。そんな奥様に対する数々の非道……許すことなどできませんでした」
「……それで、屋敷ぐるみで男爵を亡き者にしたということですか?」
「……ええ、迷いはありませんでした。はっきりと申し上げますが、私達にとって大切なのは、奥様でしたから」
ディルギン氏の言葉に対して、パリドットさんははっきりと答えた。
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「ステイリオ男爵のやり方には、私も憤りを覚えずにはいられません。しかしながら、彼の命を奪う必要があったのでしょうか?」
「旦那様がいる限り、奥様はここに戻って来ることができません。もちろん、他に生きる道がなかったという訳でもないでしょう? ですが、悪鬼の行いで、何故奥様が茨の道を進まなければならないのでしょうか?」
「なるほど……」
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恐らく、ステイリオ男爵という人間は、あまりいい人とはいえなかったのだろう。
なんとなく、それが伝わってきた。もしも、彼に評価するべき点があったとしたら、使用人達にここまで結託されることなんて、なかったはずだからだ。
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