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42.帰って来た夫人

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「奥様、ここはディルギン氏に全てを打ち明けるべきだと思います。彼は、私達の味方になりえる人物です」
「味方……」
「先程も言った通り、奥様がこちらに帰って来られたのは、彼の助言があったからです。旦那様の失踪を明かすように言ったのは、彼なのです」
「そうだったのですね……」

 ディルギン氏は、パリドットさんに助言をしたようだ。
 ステイリオ男爵の失踪を明かす。もしも夫人が男爵に狙われていたとしたら、それはかなり有効な手であるだろう。
 命を狙っていた者が失踪した。その事実さえ判明すれば、夫人は何の障害もなく、戻ってこられるからだ。

「彼は、筋書きも用意してくださったのです。旦那様は、家族に明かしていない借金で失踪した。夫人が出かけている間に、全ての責任を押し付けた。それなら、この状況にも矛盾はないと……」
「なるほど、そうでしたか……」

 私もソルーガも知らなかったが、ディルギン氏はパリドットさんに色々と吹き込んでいたようである。
 どうやら、今回の事件において、彼は夫人の味方になることを決めたらしい。
 もしも彼の予測が真実であるならば、それはこの国の法律に逆らうことだ。それでも、ディルギン氏は自らの正義を貫くつもりなのだろう。

「……ディルギンさん、わかりました。あなたに全てをお話ししましょう。ただ、その前に一つ確認をしてもいいですか? そちらの二人は?」
「ああ、二人は私の助手のようなものです。クラーレス公爵家のソルーガとセリネア嬢と言った方が、あなたにとってはわかりやすいかもしれませんね」
「クラーレス公爵家……」

 ディルギン氏の紹介によって、夫人の視線が私に向いた。
 彼女と私には、繋がりがある。私が、男爵の浮気を彼女に知らせたのだ。

「その節はお世話になりました」
「いえ、私はただ、あなたに事実を伝えただけに過ぎません」
「まさか、あなたのような方がこんな所に来ているなんて驚きです。どうして、探偵の助手を?」
「それに関しては、成り行きのようなものですね……」
「成り行き……そういえば、あの事件の時、あなたは探偵を使って調査をしていたのですね。そういう関係ということでしょうか?」
「まあ、そんな所ですね」

 夫人は、私に対して敬意を見せてくれた。
 同じような境遇であったため、彼女はそのような穏やかな態度なのだろう。
 もっとも、私に比べて彼女の境遇は厳しいものだったかもしれない。もしも命を狙われていたなら、それは私と比べ物にならない程悲惨な状況だからだ。
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