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36.慣れたやり取り
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「……ディルギン、お前の推測はよくわかった。確かに、その可能性はあるのかもしれない。あまり考えたくないことではあるが……」
「もちろん、僕の考えはあくまで推測だ。それが確実であるとはいえない」
「もしもそうなっているとしたら、男爵の居場所はわからないのか?」
「ああ、この屋敷の人々が全員でそれを隠している場合、見つかるのは困難であるだろう」
「……」
ソルーガは、男爵を見つけ出したいようだ。
その命を助け出したい。そう思っているのだろう。
しかしながら、ディルギン氏の言っている通り、屋敷ぐるみの犯行であるならば、男爵を見つけ出すのは困難だろう。
証言も得られなければ、手がかりも隠滅される。そんな状況で人を探すなんて、不可能に近いだろう。
「そもそもの話ではあるが、僕の予測が完全にあたっているなら、男爵は既に亡くなっているはずだ」
「……それなら、その無念を晴らすべきだ」
「……残念ながら、僕の考えは君とは異なっている。男爵が使用人達に、夫人を理由に危害を加えられたなら、それは暴くべきではない事柄だ」
「暴くべきではない……か」
ディルギン氏は、特に自分の考えを曲げていなかった。
彼は、警察の味方ではない。あくまでも、自分の正義に乗っ取って行動する人間だ。
だから、何も迷うことなく、男爵を諦められるのだろう。
「お前はずっと変わらないんだな……」
「ああ、もちろんさ」
ソルーガは、ゆっくりとため息を吐いた。
彼はディルギン氏と長い付き合いだ。こういうことも何回かあったのだろう。その表情からは、それが伺える。
「確かに、男爵がやろうとしたことは許されないことだろう。俺も同じ立場だったアルトアの件の時、あまり強くは言えなかった。そんな俺がどうこういうのは、おかしいことだよな……」
「それは、人間として仕方ないことだ」
「とはいえ、真実は探るつもりなんだろう?」
「もちろん、他の可能性も考えて調査は続けるつもりだ。このまま謎を解き明かせないまま帰るのは、僕としても癪だからね」
「そういう所も、いつも通りだな」
ソルーガとディルギン氏は、笑い合っていた。
色々と言い合っていたが、話はまとまったようだ。
恐らく、これも慣れたやり取りなのだろう。二人の間に、後腐れといったものはなさそうである。
「……それで、ディルギン氏、何をするつもりなのですか? 手がかりはないと言っていたと思うのですけど……」
「そのことについてだが、少し考えがあるのです」
「考え……?」
私の質問に、ディルギン氏は口の端を歪めた。
どうやら、何か考えがあるようだ。
「もちろん、僕の考えはあくまで推測だ。それが確実であるとはいえない」
「もしもそうなっているとしたら、男爵の居場所はわからないのか?」
「ああ、この屋敷の人々が全員でそれを隠している場合、見つかるのは困難であるだろう」
「……」
ソルーガは、男爵を見つけ出したいようだ。
その命を助け出したい。そう思っているのだろう。
しかしながら、ディルギン氏の言っている通り、屋敷ぐるみの犯行であるならば、男爵を見つけ出すのは困難だろう。
証言も得られなければ、手がかりも隠滅される。そんな状況で人を探すなんて、不可能に近いだろう。
「そもそもの話ではあるが、僕の予測が完全にあたっているなら、男爵は既に亡くなっているはずだ」
「……それなら、その無念を晴らすべきだ」
「……残念ながら、僕の考えは君とは異なっている。男爵が使用人達に、夫人を理由に危害を加えられたなら、それは暴くべきではない事柄だ」
「暴くべきではない……か」
ディルギン氏は、特に自分の考えを曲げていなかった。
彼は、警察の味方ではない。あくまでも、自分の正義に乗っ取って行動する人間だ。
だから、何も迷うことなく、男爵を諦められるのだろう。
「お前はずっと変わらないんだな……」
「ああ、もちろんさ」
ソルーガは、ゆっくりとため息を吐いた。
彼はディルギン氏と長い付き合いだ。こういうことも何回かあったのだろう。その表情からは、それが伺える。
「確かに、男爵がやろうとしたことは許されないことだろう。俺も同じ立場だったアルトアの件の時、あまり強くは言えなかった。そんな俺がどうこういうのは、おかしいことだよな……」
「それは、人間として仕方ないことだ」
「とはいえ、真実は探るつもりなんだろう?」
「もちろん、他の可能性も考えて調査は続けるつもりだ。このまま謎を解き明かせないまま帰るのは、僕としても癪だからね」
「そういう所も、いつも通りだな」
ソルーガとディルギン氏は、笑い合っていた。
色々と言い合っていたが、話はまとまったようだ。
恐らく、これも慣れたやり取りなのだろう。二人の間に、後腐れといったものはなさそうである。
「……それで、ディルギン氏、何をするつもりなのですか? 手がかりはないと言っていたと思うのですけど……」
「そのことについてだが、少し考えがあるのです」
「考え……?」
私の質問に、ディルギン氏は口の端を歪めた。
どうやら、何か考えがあるようだ。
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