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35.屋敷ぐるみの

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「ディルギン、それはどういうことなんだ?」
「言葉の通りだ。僕は、この屋敷の使用人達が男爵を亡き者にしたと考えている」
「なっ……どうして、そんな予測になるんだ?」
「状況を分析した結果さ」

 ディルギン氏は、ソルーガの言葉に堂々と返答していた。
 彼は真剣な顔だ。その表情は冗談ではなく、本気であることを表している。

「男爵は夫人に危害を加えようとしている。そんな状況が続く限り、夫人がこの屋敷に戻って来ることはないだろう。同時に、夫人は苦しい状況に陥るはずだ。その身を隠しながら生活しなければならないからね」
「……それは、お前の予測だろう?」
「ああ、そうさ。僕が言っているのは、全て予測に過ぎないということは前提としておいてくれ」
「つまり、お前の予測は男爵が夫人を殺害しようとしていた場合ということか」
「そういうことになる」

 ソルーガは、ディルギン氏の話を真剣に聞いていた。
 やはり、彼は真面目である。その顔を見ながら、私はふとそんなことを思っていた。
 しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。ディルギン氏の話に集中するべきだろう。

「その状況を危惧した使用人達が、男爵を失踪させた。僕は、そう考えている」
「そうなると、夫人が帰って来られるからか?」
「その通りだ」
「使用人達が、そこまでする必要があるのか?」
「ペリドット氏のことを思い出してもらいたいのだが、彼は主人が気にしていなかった夫人の失踪を僕に相談してきたのだ。少なくとも、彼は夫人を思っていたことは間違いない」
「それは、そうかもしれない」

 使用人と主の関係というものには、色々ある。
 ペリドット氏と男爵夫人のような関係性は、そこまで珍しいものでもないだろう。
 主人より使用人の方が夫人を心配する。夫婦仲が悪い貴族ならば、それは充分にあり得る関係だ。

「しかし、もしも仮に男爵を亡き者にするならば、お前に依頼する必要はないだろう?」
「それは確かにその通りだ。故に、僕は使用人達の間ですれ違いが起こったと考えている。もしくは、何か事態が変わったのかもしれない」
「なるほど……だが、それは少々飛躍した予測なんじゃないか? 何か、根拠でもあるのか?」
「この屋敷の使用人達の証言さ。君達も気になっていただろう?」
「だが、それで男爵を亡き者にしたとは繋がらないだろう?」
「彼に失踪する理由がない以上、彼は何者かの思惑によって失踪したと考えるべきだ。状況からして、外部からの干渉は考えにくい。それなら、内部の犯行ということになるだろう」

 ディルギン氏は、すらすらと自らの思考を述べていた。
 今までは、明かされていなかった彼の思考回路が、だんだんと見えてきたような気がする。
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