33 / 50
33.同じような証言
しおりを挟む
私とソルーガは、ディルギン氏とともに男爵家の人々から話を聞いていた。
当時の状況を知っているのは、この屋敷に暮らす人々だけである。しっかりと話を聞き、情報を吟味する必要があるだろう。
「私は、必死に屋敷内を探しました。奥様が失踪した直後だったので旦那様も……そう思いながら探していたのですが、その悪い予感は当たってしまったようです」
「つまり、この屋敷をくまなく探しても、ステイリオ男爵は見つからなかったという訳ですか……」
「ええ、そうなのです」
「なるほど、ありがとうございました」
ディルギン氏は、メイドに話を聞いて考えるような表情をしていた。
彼は、男爵が失踪した理由を気にしていた。きっと、今もそれを考えているのだろう。
「……そこのメイドさん、少し話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
しばらく悩んだ後、ディルギン氏は他のメイドに話しかけた。
探偵が調査していることはわかっているからなのか、屋敷の人々はその呼びかけに快く応えてくれる。
しかし、考えてみれば、この屋敷の使用人達はやけに落ち着いている気がする。男爵夫人と男爵が失踪したというのに、こんな風に平静になれるものなのだろうか。
「当時のことを聞かせていただけますか? あなたの視点から見た事柄をお教えして欲しいのです」
「はい……私は、いつも通り屋敷の掃除をしていたのですが、周囲の使用人達が慌てている様子が目に入って来て、それで話を聞いてみることにしたのです」
「なるほど……それで?」
「ええ、そうしたら、男爵が部屋からいなくなったと聞いて……」
「捜索に参加することにした訳ですか?」
「はい……」
メイドさんの証言は、他の人達と同じようなものだった。
男爵がいなくなったと聞いて、捜索に参加する。それは、この屋敷にいる人々の共通の事柄であるようだ。
「その時、あなたはどのような気持ちでしたか?」
「気持ちですか? えっと……奥様がいなくなった直後でしたので、もしかしたら旦那様も、と思っていました」
「結果的に、男爵はいなくなっていた……」
「はい、悪い予感が当たってしまって……」
メイドさんは、悲痛な面持ちでそう語っていた。
ただ、その証言は少し気になる。先程のメイドも、同じようなことを言っていたからだ。
もちろん、この状況でそういったことを思うのはおかしいことではない。だが、どうも違和感があるのだ。
「なるほど……ありがとうございました。参考になりました」
「いえ……」
ディルギン氏は、口の端を少し歪めていた。
恐らく、彼も同じようなことを考えているのだろう。
当時の状況を知っているのは、この屋敷に暮らす人々だけである。しっかりと話を聞き、情報を吟味する必要があるだろう。
「私は、必死に屋敷内を探しました。奥様が失踪した直後だったので旦那様も……そう思いながら探していたのですが、その悪い予感は当たってしまったようです」
「つまり、この屋敷をくまなく探しても、ステイリオ男爵は見つからなかったという訳ですか……」
「ええ、そうなのです」
「なるほど、ありがとうございました」
ディルギン氏は、メイドに話を聞いて考えるような表情をしていた。
彼は、男爵が失踪した理由を気にしていた。きっと、今もそれを考えているのだろう。
「……そこのメイドさん、少し話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
しばらく悩んだ後、ディルギン氏は他のメイドに話しかけた。
探偵が調査していることはわかっているからなのか、屋敷の人々はその呼びかけに快く応えてくれる。
しかし、考えてみれば、この屋敷の使用人達はやけに落ち着いている気がする。男爵夫人と男爵が失踪したというのに、こんな風に平静になれるものなのだろうか。
「当時のことを聞かせていただけますか? あなたの視点から見た事柄をお教えして欲しいのです」
「はい……私は、いつも通り屋敷の掃除をしていたのですが、周囲の使用人達が慌てている様子が目に入って来て、それで話を聞いてみることにしたのです」
「なるほど……それで?」
「ええ、そうしたら、男爵が部屋からいなくなったと聞いて……」
「捜索に参加することにした訳ですか?」
「はい……」
メイドさんの証言は、他の人達と同じようなものだった。
男爵がいなくなったと聞いて、捜索に参加する。それは、この屋敷にいる人々の共通の事柄であるようだ。
「その時、あなたはどのような気持ちでしたか?」
「気持ちですか? えっと……奥様がいなくなった直後でしたので、もしかしたら旦那様も、と思っていました」
「結果的に、男爵はいなくなっていた……」
「はい、悪い予感が当たってしまって……」
メイドさんは、悲痛な面持ちでそう語っていた。
ただ、その証言は少し気になる。先程のメイドも、同じようなことを言っていたからだ。
もちろん、この状況でそういったことを思うのはおかしいことではない。だが、どうも違和感があるのだ。
「なるほど……ありがとうございました。参考になりました」
「いえ……」
ディルギン氏は、口の端を少し歪めていた。
恐らく、彼も同じようなことを考えているのだろう。
20
お気に入りに追加
1,742
あなたにおすすめの小説

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました
新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

幼馴染が好きなら幼馴染だけ愛せば?
新野乃花(大舟)
恋愛
フーレン伯爵はエレナとの婚約関係を結んでいながら、仕事だと言って屋敷をあけ、その度に自身の幼馴染であるレベッカとの関係を深めていた。その関係は次第に熱いものとなっていき、ついにフーレン伯爵はエレナに婚約破棄を告げてしまう。しかしその言葉こそ、伯爵が奈落の底に転落していく最初の第一歩となるのであった。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

戦いから帰ってきた騎士なら、愛人を持ってもいいとでも?
新野乃花(大舟)
恋愛
健気に、一途に、戦いに向かった騎士であるトリガーの事を待ち続けていたフローラル。彼女はトリガーの婚約者として、この上ないほどの思いを抱きながらその帰りを願っていた。そしてそんなある日の事、戦いを終えたトリガーはフローラルのもとに帰還する。その時、その隣に親密そうな関係の一人の女性を伴って…。

本当に私がいなくなって今どんなお気持ちですか、元旦那様?
新野乃花(大舟)
恋愛
「お前を捨てたところで、お前よりも上の女性と僕はいつでも婚約できる」そう豪語するノークはその自信のままにアルシアとの婚約関係を破棄し、彼女に対する当てつけのように位の高い貴族令嬢との婚約を狙いにかかる。…しかし、その行動はかえってノークの存在価値を大きく落とし、アリシアから鼻で笑われる結末に向かっていくこととなるのだった…。

もうあなた様の事は選びませんので
新野乃花(大舟)
恋愛
ロベルト男爵はエリクシアに対して思いを告げ、二人は婚約関係となった。しかし、ロベルトはその後幼馴染であるルアラの事ばかりを気にかけるようになり、エリクシアの事を放っておいてしまう。その後ルアラにたぶらかされる形でロベルトはエリクシアに婚約破棄を告げ、そのまま追放してしまう。…しかしそれから間もなくして、ロベルトはエリクシアに対して一通の手紙を送る。そこには、頼むから自分と復縁してほしい旨の言葉が記載されており…。

出て行けと言われたのですから本当に出て行ってあげます!
新野乃花(大舟)
恋愛
フルード第一王子はセレナとの婚約関係の中で、彼女の事を激しく束縛していた。それに対してセレナが言葉を返したところ、フルードは「気に入らないなら出て行ってくれて構わない」と口にしてしまう。セレナがそんな大それた行動をとることはないだろうと踏んでフルードはその言葉をかけたわけであったが、その日の夜にセレナは本当に姿を消してしまう…。自分の行いを必死に隠しにかかるフルードであったが、それから間もなくこの一件は国王の耳にまで入ることとなり…。

幼馴染だけを優先するなら、婚約者はもう不要なのですね
新野乃花(大舟)
恋愛
アリシアと婚約関係を結んでいたグレイ男爵は、自身の幼馴染であるミラの事を常に優先していた。ある日、グレイは感情のままにアリシアにこう言ってしまう。「出て行ってくれないか」と。アリシアはそのままグレイの前から姿を消し、婚約関係は破棄されることとなってしまった。グレイとミラはその事を大いに喜んでいたが、アリシアがいなくなったことによる弊害を、二人は後に思い知ることとなり…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる