何も知らない愚かな妻だとでも思っていたのですか?

木山楽斗

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30.今後のことは

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「……これから、どうなるのかしらね」
「……どうなる? そんなことは心配する必要がないことだ」
「でも、色々と大変だと思うのだけれど」
「心配する必要はない」

 私は、ふとこれからのことを考えていた。
 ステイリオ男爵の事件、それは一体どんな顛末を迎えるのだろうか。夫人の失踪した理由は掴めたが、まだわからない部分が多いので、正直不安である。
 だが、ソルーガがここまで言っているのだから、きっと大丈夫なのだろう。彼は、ディルギン氏について行き、こういうことを経験している。そんな彼がそう言うなら、心配する必要はないのだろう。

「流石に、あなたは余裕そうね?」
「え? いや、別に余裕という訳ではないが……」
「そうなの? 落ち着いているように思えるけど……」
「もちろん、今は落ち着けているさ。そういうことを考える時間という訳ではないからな」
「なるほど……切り替えが上手いということなのね」

 ソルーガも、別に何も気にしていないという訳ではないようだ。
 今は休むべき時間だから、気にしない。そういう意識であるようだ。
 それは、いいことだろう。私も、見習わなければならない。

「とはいえ、俺と姉貴では立場も違う。きっと、色々と考えてしまうんだよな……」
「……そうね」

 ステイリオ男爵の事件は、私もあまり他人事であるとは言い難いだろう。
 なぜなら、アルトアとの浮気によって起こった事柄ということは、私もステイリオ男爵夫人も変わらないからだ。一歩間違えれば、私の身にも同じことが起こっていたかもしれない。

「……まあ、姉貴はこれから幸せになるんだ。苦労したんだからそれでいい。心配する必要なんてないさ」
「……え?」
「うん?」

 そこで私は、思わずおかしな声をあげてしまった。
 ソルーガの唐突な言葉の意味が、よくわからなかったからだ。

「な、なんだよ、その反応は……」
「え? いや、その……ソルーガは、何か勘違いしているのではないかしら?」
「勘違い?」
「私は、ステイリオ男爵の事件がどうなるかという話をしていたのよ?」
「な、何……?」

 少し考えた結果、私はソルーガが勘違いしたのだと理解した。
 恐らく、彼は私が自身の今後のことを嘆いていると思ったのだろう。
 しかし、そういう訳ではない。私はあくまで、今回起こった事件に関しての話をしていたのである。

「……」
「……」

 ソルーガは、恥ずかしそうに私から視線を外した。
 その様子に、私は思わず笑ってしまう。なんだか、可愛らしかったからだ。
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