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24.さらなる騒動
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私とソルーガは、ディルギン氏の元を訪ねていた。
ウォルリッドとオルメアには、宿を取りに行ってもらっている。それができたら、二人には自由にしてもらっていいと言ってある。
ディルギン氏の道楽に付き合うのは、私達姉弟だけでいい。あの二人には、観光でも楽しんでもらいたいものである。
「正直言って、君の姉君が来てくれたのは私にとって嬉しい誤算だったよ」
ディルギン氏は、私とソルーガに対して、驚くべきことを言ってきた。
道中も話していたことではあるが、彼が私のことを歓迎することはないと思っていた。
だが、実際の彼はこのように言っている。それは、議論を重ねた私達にとっては信じられないことだったのだ。
「珍しいな……お前が、そんなことを言うなんて」
「もちろん、平時であるなら、僕も苦い顔をしたかもしれない。ただ、今の僕が抱えている事件は、彼女の存在があることによって、面白い方向を向く可能性が高い。それを僕は、喜んでいるのさ」
「……私の来訪を歓迎しているという訳ではないようですね」
私とソルーガは、少し冷静になっていた。
どうやら、ディルギン氏の興味は事件に向いているらしい。この歓迎は、私にではなく、その案件ということだろう。
「一体、どんな事件があったんだ?」
「ステイリオ男爵夫人が、失踪したそうだ」
「ステイリオ男爵夫人……なんだか、その名前を最近どこかで聞いたことがあるような気がするが」
「もしかして……アルトアと浮気していた?」
「正しく、その通りです。流石ですね、セリネア嬢」
ディルギン氏は、私に対して少し嬉しそうに笑った。
ステイリオ男爵は、アルトアの浮気相手の一人だ。その夫人が失踪した。不謹慎かもしれないが、それは確かに気になる事件である。
「私は、アルトア嬢の事件のことを誰よりも深く知っている。まず何を疑ったのか、わかるか? ソルーガ?」
「……アルトア嬢を襲った犯人が、男爵夫人だったとか? それなら、失踪する理由があるだろう?」
「おっと、君にはまだ伝えていなかったな。彼女を襲った犯人は、クラッシオ伯爵夫人の手の者だ。その推測に辿り着くことは当然であるが、残念ながら誤りだ」
「そうか……」
ディルギン氏のとんでもない発言を、ソルーガは流した。
それはきっと、二人にとってはいつものやり取りなのだろう。だが、私にとっては突然の暴露であり、動揺するべきことである。
「姉貴、大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
「悪くもなるわ。アルトア嬢を襲った犯人が、わかっているのでしょう? それなら、警察に言うべきじゃない」
「セリネア嬢、そんな義理は私達にはないことです」
「そんな馬鹿な……」
「この国の警察が優秀であるなら、彼女が犯人であることは明かされるでしょう。明かされなかったなら、それまでのことです。そもそも、その事件の犯人を暴くことにそれ程意味があるかどうかはわかりませんが」
私は、硬直していた。ディルギン氏の言葉に、衝撃を受けたからだ。
彼の理論は、わからない訳ではない。しかし、それは首を傾げたくなることだ。
ただ、私はクラッシオ伯爵夫人が犯人であるという証拠を掴んでいる訳ではない。無闇に騒げば、彼女を不当に陥れることになるだけなので、警察に言うことは得策ではないだろう。
そもそも、私もアルトアには思う所がある。心情的に彼女を襲った犯人を突き止めるのに気が進まないというのは、ディルギン氏の言う通りなのだ。
ウォルリッドとオルメアには、宿を取りに行ってもらっている。それができたら、二人には自由にしてもらっていいと言ってある。
ディルギン氏の道楽に付き合うのは、私達姉弟だけでいい。あの二人には、観光でも楽しんでもらいたいものである。
「正直言って、君の姉君が来てくれたのは私にとって嬉しい誤算だったよ」
ディルギン氏は、私とソルーガに対して、驚くべきことを言ってきた。
道中も話していたことではあるが、彼が私のことを歓迎することはないと思っていた。
だが、実際の彼はこのように言っている。それは、議論を重ねた私達にとっては信じられないことだったのだ。
「珍しいな……お前が、そんなことを言うなんて」
「もちろん、平時であるなら、僕も苦い顔をしたかもしれない。ただ、今の僕が抱えている事件は、彼女の存在があることによって、面白い方向を向く可能性が高い。それを僕は、喜んでいるのさ」
「……私の来訪を歓迎しているという訳ではないようですね」
私とソルーガは、少し冷静になっていた。
どうやら、ディルギン氏の興味は事件に向いているらしい。この歓迎は、私にではなく、その案件ということだろう。
「一体、どんな事件があったんだ?」
「ステイリオ男爵夫人が、失踪したそうだ」
「ステイリオ男爵夫人……なんだか、その名前を最近どこかで聞いたことがあるような気がするが」
「もしかして……アルトアと浮気していた?」
「正しく、その通りです。流石ですね、セリネア嬢」
ディルギン氏は、私に対して少し嬉しそうに笑った。
ステイリオ男爵は、アルトアの浮気相手の一人だ。その夫人が失踪した。不謹慎かもしれないが、それは確かに気になる事件である。
「私は、アルトア嬢の事件のことを誰よりも深く知っている。まず何を疑ったのか、わかるか? ソルーガ?」
「……アルトア嬢を襲った犯人が、男爵夫人だったとか? それなら、失踪する理由があるだろう?」
「おっと、君にはまだ伝えていなかったな。彼女を襲った犯人は、クラッシオ伯爵夫人の手の者だ。その推測に辿り着くことは当然であるが、残念ながら誤りだ」
「そうか……」
ディルギン氏のとんでもない発言を、ソルーガは流した。
それはきっと、二人にとってはいつものやり取りなのだろう。だが、私にとっては突然の暴露であり、動揺するべきことである。
「姉貴、大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
「悪くもなるわ。アルトア嬢を襲った犯人が、わかっているのでしょう? それなら、警察に言うべきじゃない」
「セリネア嬢、そんな義理は私達にはないことです」
「そんな馬鹿な……」
「この国の警察が優秀であるなら、彼女が犯人であることは明かされるでしょう。明かされなかったなら、それまでのことです。そもそも、その事件の犯人を暴くことにそれ程意味があるかどうかはわかりませんが」
私は、硬直していた。ディルギン氏の言葉に、衝撃を受けたからだ。
彼の理論は、わからない訳ではない。しかし、それは首を傾げたくなることだ。
ただ、私はクラッシオ伯爵夫人が犯人であるという証拠を掴んでいる訳ではない。無闇に騒げば、彼女を不当に陥れることになるだけなので、警察に言うことは得策ではないだろう。
そもそも、私もアルトアには思う所がある。心情的に彼女を襲った犯人を突き止めるのに気が進まないというのは、ディルギン氏の言う通りなのだ。
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