上 下
24 / 50

24.さらなる騒動

しおりを挟む
 私とソルーガは、ディルギン氏の元を訪ねていた。
 ウォルリッドとオルメアには、宿を取りに行ってもらっている。それができたら、二人には自由にしてもらっていいと言ってある。
 ディルギン氏の道楽に付き合うのは、私達姉弟だけでいい。あの二人には、観光でも楽しんでもらいたいものである。

「正直言って、君の姉君が来てくれたのは私にとって嬉しい誤算だったよ」

 ディルギン氏は、私とソルーガに対して、驚くべきことを言ってきた。
 道中も話していたことではあるが、彼が私のことを歓迎することはないと思っていた。
 だが、実際の彼はこのように言っている。それは、議論を重ねた私達にとっては信じられないことだったのだ。

「珍しいな……お前が、そんなことを言うなんて」
「もちろん、平時であるなら、僕も苦い顔をしたかもしれない。ただ、今の僕が抱えている事件は、彼女の存在があることによって、面白い方向を向く可能性が高い。それを僕は、喜んでいるのさ」
「……私の来訪を歓迎しているという訳ではないようですね」

 私とソルーガは、少し冷静になっていた。
 どうやら、ディルギン氏の興味は事件に向いているらしい。この歓迎は、私にではなく、その案件ということだろう。

「一体、どんな事件があったんだ?」
「ステイリオ男爵夫人が、失踪したそうだ」
「ステイリオ男爵夫人……なんだか、その名前を最近どこかで聞いたことがあるような気がするが」
「もしかして……アルトアと浮気していた?」
「正しく、その通りです。流石ですね、セリネア嬢」

 ディルギン氏は、私に対して少し嬉しそうに笑った。
 ステイリオ男爵は、アルトアの浮気相手の一人だ。その夫人が失踪した。不謹慎かもしれないが、それは確かに気になる事件である。

「私は、アルトア嬢の事件のことを誰よりも深く知っている。まず何を疑ったのか、わかるか? ソルーガ?」
「……アルトア嬢を襲った犯人が、男爵夫人だったとか? それなら、失踪する理由があるだろう?」
「おっと、君にはまだ伝えていなかったな。彼女を襲った犯人は、クラッシオ伯爵夫人の手の者だ。その推測に辿り着くことは当然であるが、残念ながら誤りだ」
「そうか……」

 ディルギン氏のとんでもない発言を、ソルーガは流した。
 それはきっと、二人にとってはいつものやり取りなのだろう。だが、私にとっては突然の暴露であり、動揺するべきことである。

「姉貴、大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
「悪くもなるわ。アルトア嬢を襲った犯人が、わかっているのでしょう? それなら、警察に言うべきじゃない」
「セリネア嬢、そんな義理は私達にはないことです」
「そんな馬鹿な……」
「この国の警察が優秀であるなら、彼女が犯人であることは明かされるでしょう。明かされなかったなら、それまでのことです。そもそも、その事件の犯人を暴くことにそれ程意味があるかどうかはわかりませんが」

 私は、硬直していた。ディルギン氏の言葉に、衝撃を受けたからだ。
 彼の理論は、わからない訳ではない。しかし、それは首を傾げたくなることだ。
 ただ、私はクラッシオ伯爵夫人が犯人であるという証拠を掴んでいる訳ではない。無闇に騒げば、彼女を不当に陥れることになるだけなので、警察に言うことは得策ではないだろう。
 そもそも、私もアルトアには思う所がある。心情的に彼女を襲った犯人を突き止めるのに気が進まないというのは、ディルギン氏の言う通りなのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。

魔がさしたから浮気したと言うのなら、私に魔がさしても文句を言わないでくださいね?

新野乃花(大舟)
恋愛
しきりに魔がさしたという言葉を使い、自分の浮気を正当化していた騎士のリルド。そんな彼の婚約者だったクレアはある日、その言葉をそのままリルドに対してお返ししてみようと考えたのだった。

義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!

新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…! ※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります! ※カクヨムにも投稿しています!

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?

新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。

結局、私の言っていたことが正しかったようですね、元旦那様

新野乃花(大舟)
恋愛
ノレッジ伯爵は自身の妹セレスの事を溺愛するあまり、自身の婚約者であるマリアとの関係をおろそかにしてしまう。セレスもまたマリアに対する嫌がらせを繰り返し、その罪をすべてマリアに着せて楽しんでいた。そんなある日の事、マリアとの関係にしびれを切らしたノレッジはついにマリアとの婚約を破棄してしまう。その時、マリアからある言葉をかけられるのだが、負け惜しみに過ぎないと言ってその言葉を切り捨てる。それが後々、自分に跳ね返ってくるものとも知らず…。

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

処理中です...