何も知らない愚かな妻だとでも思っていたのですか?

木山楽斗

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21.心配な弟

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「でも、公爵家の次期当主が、探偵の手伝いなんてやっていていいの?」
「……あいつには、恩がある。その恩の分は、手を貸すつもりだ」
「恩……恩ね」

 ソルーガは、かつて探偵のディルギン氏に助けられたことがあるらしい。
 正確に言えば、救われたのはソルーガの友人であるのだが、事件をディルギン氏の元に持ち込んだのはソルーガであるらしく、それで恩義を感じているようなのだ。

 ソルーガのそういう義理堅い所が、私は嫌いではない。
 弟のことを誇れるかと聞かれた時、私はまず間違いなく頷くだろう。

 しかし、それで本当にいいのかということは、不安になってくる。
 公爵家の次期当主が、探偵の手伝い。それはどう考えても、心証がいいことではない。

「ディルギン氏の助手というのは、あなたでなければならないのかしら?」
「ああ、そう聞いている」
「気に入られているのね?」
「何故かはわからないが、そのようだ」

 ディルギン氏は、ソルーガのことを大変気に入っているようだ。
 その高貴な人柄は、変人の部類に入る彼からしても、好ましいものなのかもしれない。
 だが、こんな風に弟を連れまわされているという状況は、少々気になるものだ。この際だから、一言言ってみてもいいかもしれない。

「ソルーガ、とりあえず私もディルギン氏の所にいってもいいかしら?」
「何?」
「この間の件について、改めてお礼も言いたいし……ほら、最近の私というのは、どうにも暇でしょう?」
「それは……」

 ソルーガのこととは別に、私は知的好奇心を満たしたくなっていた。
 最近は屋敷に籠っているのだが、それは健康にいいとは言い難い。いい機会なので、外に出たくなったのである。

「苦い顔をされるかもしれないぞ?」
「行っただけでも?」
「あいつは偏屈な人間なんだ。それは、姉貴も知っているかもしれないが」
「まあ、そうね……でも、もしそうなったら、文句の一つでも言って帰ってくればいいのではないかしら」
「相変わらず、姉貴は強気だな……よし、それなら一緒に行くとするか」
「ええ」

 私は、ソルーガの言葉にゆっくりと頷いた。
 実の所、今回私が彼について行きたかったのにはもう一つ理由がある。単純に、私は弟と旅がしたかったのだ。

 私とソルーガは、仲が良い。そんな弟ともに出かけるのは、私にとって嬉しいことだ。
 当然のことではあるが、結婚している間はそういうことはなかった。そのため、久し振りの弟と交流する機会を私は是非作りたかったのである。

 それは、彼も同じであると信じたい。
 私の言葉に笑顔だったことから、それは間違いないと思うのだが。
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