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19.密かな訪問者
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私は、ラウグス様の部屋から出てきていた。
彼はアルトアに裏切られたという事実で放心状態になっており、まともに話せる状態ではなかった。そのため、これ以上部屋にいても無駄だと判断したのである。
ウォルリッドは、そんな主人の介抱のために部屋に残った。どれだけ裏切られても、その情を捨てきれていないのだろう。
そんな彼の優しさは、素晴らしいものだと思える。ただ、ラウグス様には勿体ないものだ。その優しさに応える気概を、彼は持ち合わせていないのだから。
「……さて、全てが終わったようですね、セリネア公爵令嬢」
「……ディルギン氏?」
部屋から出た私の前に現れたのは、見覚えのある男性だった。
どうして、彼がこんな所にいるのか。そんな疑問に、私は固まってしまう。
「どうして、あなたがここに?」
「それは、些細なことですね。私は、依頼を遂行しているに過ぎません」
「依頼……アルトア嬢を尾行していたのですか? それで、ここまで来たと?」
「ええ、それだけのことです」
彼には、浮気の調査を頼んでいた。
だが、だからといって、この屋敷の中にいるというのはおかしな話である。
「この屋敷の主人には、使用人との信頼関係を築いた方がいいと伝えた方がいいかもしれません」
「それは……」
「まあ、そんなことはどうでもいいことです。それより、色々と終わったようですね。いえ、始まったというべきでしょうか?」
「え、ええ……」
ディルギン氏は、笑みを浮かべていた。
それは、依頼が無事に終わったことに対する安堵であるとは思えない。なんというか、この状況を楽しんでいるような笑みだ。
彼は、奇妙な事件を嬉々として取り組むとソルーガから聞いている。今回の事件は、そんな彼の色眼鏡にかなうものだったのだろうか。
「さて、今回の事件というものは、非常に単純明快なものでした。ただ、一つ奇妙だったのは、アルトア・トゥマーリン伯爵令嬢という人物でしょう。彼女という存在が、あなたと夫と浮気相手という関係性をさらに広げていた。そう解釈するべきでしょうか?」
「なんですか? 急に?」
「彼女は……少々、奔放すぎたということでしょうね。頭が切れないという訳ではなかったのかもしれないが、人の心というものに対する理解が足りなかった。事実に対して迅速に行動することはできても、その裏側に何があるかを理解していなかった。それが、今回の悲劇に繋がったということでしょうか」
「悲劇?」
ディルギン氏は、道を開けるように私の前から退いた。
その先で使用人達は集まって、何か話をしている。その表情は、驚きと恐怖に満ちていた。
「考慮するべきことだった。といっても、それは私達には関係がないことであるということをあなたは覚えておくといいでしょう。まあ要するに、気にする必要は何もないということです」
ディルギン氏の言葉に、私はゆっくりと息を呑んだ。
アルトアには必ず天罰が下るであろうということは、予想していたことである。そうなることを私は望んでいた節もある。
しかし、それは私が思っていたよりも早くに実行されたようだ。
だが、ディルギン氏の言う通り、それは私が気にするべきではないのだろう。
全ての原因は、アルトアにある。この結果も、彼女の自業自得でしかないのだから。
彼はアルトアに裏切られたという事実で放心状態になっており、まともに話せる状態ではなかった。そのため、これ以上部屋にいても無駄だと判断したのである。
ウォルリッドは、そんな主人の介抱のために部屋に残った。どれだけ裏切られても、その情を捨てきれていないのだろう。
そんな彼の優しさは、素晴らしいものだと思える。ただ、ラウグス様には勿体ないものだ。その優しさに応える気概を、彼は持ち合わせていないのだから。
「……さて、全てが終わったようですね、セリネア公爵令嬢」
「……ディルギン氏?」
部屋から出た私の前に現れたのは、見覚えのある男性だった。
どうして、彼がこんな所にいるのか。そんな疑問に、私は固まってしまう。
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「それは、些細なことですね。私は、依頼を遂行しているに過ぎません」
「依頼……アルトア嬢を尾行していたのですか? それで、ここまで来たと?」
「ええ、それだけのことです」
彼には、浮気の調査を頼んでいた。
だが、だからといって、この屋敷の中にいるというのはおかしな話である。
「この屋敷の主人には、使用人との信頼関係を築いた方がいいと伝えた方がいいかもしれません」
「それは……」
「まあ、そんなことはどうでもいいことです。それより、色々と終わったようですね。いえ、始まったというべきでしょうか?」
「え、ええ……」
ディルギン氏は、笑みを浮かべていた。
それは、依頼が無事に終わったことに対する安堵であるとは思えない。なんというか、この状況を楽しんでいるような笑みだ。
彼は、奇妙な事件を嬉々として取り組むとソルーガから聞いている。今回の事件は、そんな彼の色眼鏡にかなうものだったのだろうか。
「さて、今回の事件というものは、非常に単純明快なものでした。ただ、一つ奇妙だったのは、アルトア・トゥマーリン伯爵令嬢という人物でしょう。彼女という存在が、あなたと夫と浮気相手という関係性をさらに広げていた。そう解釈するべきでしょうか?」
「なんですか? 急に?」
「彼女は……少々、奔放すぎたということでしょうね。頭が切れないという訳ではなかったのかもしれないが、人の心というものに対する理解が足りなかった。事実に対して迅速に行動することはできても、その裏側に何があるかを理解していなかった。それが、今回の悲劇に繋がったということでしょうか」
「悲劇?」
ディルギン氏は、道を開けるように私の前から退いた。
その先で使用人達は集まって、何か話をしている。その表情は、驚きと恐怖に満ちていた。
「考慮するべきことだった。といっても、それは私達には関係がないことであるということをあなたは覚えておくといいでしょう。まあ要するに、気にする必要は何もないということです」
ディルギン氏の言葉に、私はゆっくりと息を呑んだ。
アルトアには必ず天罰が下るであろうということは、予想していたことである。そうなることを私は望んでいた節もある。
しかし、それは私が思っていたよりも早くに実行されたようだ。
だが、ディルギン氏の言う通り、それは私が気にするべきではないのだろう。
全ての原因は、アルトアにある。この結果も、彼女の自業自得でしかないのだから。
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