何も知らない愚かな妻だとでも思っていたのですか?

木山楽斗

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17.計算された関係

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「アルトア嬢、随分と楽しそうですね……」
「……あら? 奥様……セリネア様でしたかね?」

 私が話しかけても、アルトアは余裕そうな態度を崩さなかった。
 今回、私が戦いに来たのはラウグス様だ。しかし、アルトアにも当然非がある。
 そんな彼女が楽しそうにしているというのは、どう考えてもおかしいことだ。

「アルトア嬢、あなたは状況を理解しているのですか?」
「それは、どういうことでしょうか?」
「当然のことながら、あなたの秘密も今回の一件で明るみに出るのです。すると、どうなるか……」
「ああ、そういうことですか……」

 私の言葉に対して、アルトアは笑う。
 それもまた、余裕の笑みだ。ここまで言っても、彼女はその態度を崩さない。

 だが、実際の所、彼女はとても厳しい立場にあるはずだ。
 彼女がラウグス様と関係を持っていた。その事実が公になれば、他に関係を持っている貴族達から避難されることになるだろう。

「確かに、今回の件が明るみに出てしまえば、私も遊びをやめなければなりませんね」
「……それだけで済むと思っているのですか? あなたが関係を持っていた人達は、あなたのことを許しませんよ」
「ふふ、私はそれだけで済むと思っていますよ。何せ、私が関係を持った人達は皆、既婚や婚約者がいる身ですから……その人達が、私を堂々と非難できると思いますか?」
「それは……」

 アルトアの言葉に、私は少し怯むことになった。
 確かに、彼女の言う通り、他に関係を持っていた人達はアルトアを堂々と批判できるような人達ではなかったからだ。

 立場上、相手にとってもそれは公にできないことである。
 その面から批判はし辛いということになるだろう。

 さらに、心情的にもそれを批判することは難しいはずだ。
 なぜなら、アルトアのやっていることを非難するということは、自らの行いを避難するのと同じだからである。
 そんなものを気にしない者もいるかもしれない。ただ、多くの者は、アルトアへの非難を躊躇うはずだ。

「……まさか、そこまで計算して関係を結んでいたというのですか?」
「さて、どうでしょうね……」

 アルトアは、私に対してわざとらしく笑ってみせた。
 それはつまり、全てが計算の上だったということなのだろう。

 彼女の性格については、ソルーガから聞いている。
 危険そのものを楽しむ性格。それは、ディルギン氏の推測だ。

 しかし、彼女は安全対策も怠ってはいなかったようである。
 ディルギン氏が例え話として用いたバンジージャンプというものは、あくまで安全であるという前提の元に行われるものだ。同じように、彼女も本当の危険に飛び込むつもりはなかったということなのだろう。

「……ふっ」
「……え?」

 そこで私は、思わず笑ってしまった。
 そんな私に、アルトアは困惑している。ここで笑みを浮かべられるとは、流石に彼女も思っていなかったようだ。
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