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7.二人の覚悟に
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「……という訳で、私はラウグス様の秘密を隠すことに決めたのです」
使用人ウォルリッドは、私にこれまでの経緯を語ってくれた。
彼が、主であるラウグス様の浮気を知って脅されるようになったこと。私に包み隠さず話してくれたのだ。
彼の表情からは、怒りや悲しみといった様々な感情が見えた。
だが、一番大きい感情は、失望であるように思える。
恐らく、彼はラウグス様のことを信頼していたのだろう。生まれた時から仕えていたようなものである彼にとって、裏切られた悲しみは計り知れなかったのではないだろうか。
「でも、結局、あなたはこうして私に全てを打ち明けている訳よね……一体、どういう心境の変化があったのかしら?」
「オルメアと話し合った結果です」
「オルメアと?」
「ええ、彼女の方から相談を受けたのです。主人の秘密を暴露するのは使用人失格かもしれない。だが、自分はもう耐えられないと……」
ウォルリッドは、拳を握り締めながらそう呟いた。
その拳には、相当な力が込められている。それだけ、彼は苦しかったということなのかもしれない。
「僕達は、結論を出しました。例え自分達がどうなろうとも、正しき道を進むべきだと。主人の過ちを正す。そのために、あなたに全てを打ち明けることにしたのです」
「なるほどね……」
ウォルリッドもオルメアも、覚悟を決めたようだ。
主人に逆らう。使用人として、それがどれ程思い決断であるかは、私にも想像できる。
そんな覚悟を決めた二人には、私も相応の覚悟で返すべきだろう。
幸いにも、私は既にラウグス様と袂を分かつ決断を決めている。彼と真正面から戦うことに対して、躊躇う理由はない。
「……二人とも、よく話してくれたわね」
「いえ……」
「知っているかもしれないけれど、私もラウグス様の浮気については把握していたわ。実の所、その証拠を見つけるための準備を始めた所なの」
「そうなのですか?」
「ええ、まあ、要するに私も彼と戦う覚悟を決めたということよ。あなた達の告発は、非常にタイミングがよかったといえるわね」
二人が覚悟を決めたのが今で本当によかった。
今よりも前に伝えられていたら、私は悩むことになっていただろう。今よりも後に伝えられていたら、既にことが終わっていただろう。
今なら、二人の証言も証拠として使うことができる。
彼と彼女の苦しみは、客観的に見れば、心証が傾くものだ。もしもこの件が公になった場合、それはそれなりに有効に働いてくれるだろう。
「あなた達のことは、私が必ず守ると約束しましょう。だから、安心してもらっていいわ。私と彼は、同じ公爵家の人間。彼の生み出す火の粉が、私に振り払えないなんて道理はないわ」
「ありがとうございます」
「すみません、セリネア様……」
「気にすることはないわ。私にとっても、あなた達の決断はありがたいものなのだから」
私は、二人のことを守ると約束した。
利益的に、それは必要なことだ。
だが、何より心情的に二人を守りたかった。
この二人は、ラウグス様の被害者である。
私と同じ、いやそれ以上に彼の行いに傷ついているだろう。
このような素晴らしい使用人達をラウグス様の好きなようにさせたくはない。私は、強くそう思ったのである。
使用人ウォルリッドは、私にこれまでの経緯を語ってくれた。
彼が、主であるラウグス様の浮気を知って脅されるようになったこと。私に包み隠さず話してくれたのだ。
彼の表情からは、怒りや悲しみといった様々な感情が見えた。
だが、一番大きい感情は、失望であるように思える。
恐らく、彼はラウグス様のことを信頼していたのだろう。生まれた時から仕えていたようなものである彼にとって、裏切られた悲しみは計り知れなかったのではないだろうか。
「でも、結局、あなたはこうして私に全てを打ち明けている訳よね……一体、どういう心境の変化があったのかしら?」
「オルメアと話し合った結果です」
「オルメアと?」
「ええ、彼女の方から相談を受けたのです。主人の秘密を暴露するのは使用人失格かもしれない。だが、自分はもう耐えられないと……」
ウォルリッドは、拳を握り締めながらそう呟いた。
その拳には、相当な力が込められている。それだけ、彼は苦しかったということなのかもしれない。
「僕達は、結論を出しました。例え自分達がどうなろうとも、正しき道を進むべきだと。主人の過ちを正す。そのために、あなたに全てを打ち明けることにしたのです」
「なるほどね……」
ウォルリッドもオルメアも、覚悟を決めたようだ。
主人に逆らう。使用人として、それがどれ程思い決断であるかは、私にも想像できる。
そんな覚悟を決めた二人には、私も相応の覚悟で返すべきだろう。
幸いにも、私は既にラウグス様と袂を分かつ決断を決めている。彼と真正面から戦うことに対して、躊躇う理由はない。
「……二人とも、よく話してくれたわね」
「いえ……」
「知っているかもしれないけれど、私もラウグス様の浮気については把握していたわ。実の所、その証拠を見つけるための準備を始めた所なの」
「そうなのですか?」
「ええ、まあ、要するに私も彼と戦う覚悟を決めたということよ。あなた達の告発は、非常にタイミングがよかったといえるわね」
二人が覚悟を決めたのが今で本当によかった。
今よりも前に伝えられていたら、私は悩むことになっていただろう。今よりも後に伝えられていたら、既にことが終わっていただろう。
今なら、二人の証言も証拠として使うことができる。
彼と彼女の苦しみは、客観的に見れば、心証が傾くものだ。もしもこの件が公になった場合、それはそれなりに有効に働いてくれるだろう。
「あなた達のことは、私が必ず守ると約束しましょう。だから、安心してもらっていいわ。私と彼は、同じ公爵家の人間。彼の生み出す火の粉が、私に振り払えないなんて道理はないわ」
「ありがとうございます」
「すみません、セリネア様……」
「気にすることはないわ。私にとっても、あなた達の決断はありがたいものなのだから」
私は、二人のことを守ると約束した。
利益的に、それは必要なことだ。
だが、何より心情的に二人を守りたかった。
この二人は、ラウグス様の被害者である。
私と同じ、いやそれ以上に彼の行いに傷ついているだろう。
このような素晴らしい使用人達をラウグス様の好きなようにさせたくはない。私は、強くそう思ったのである。
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