堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗

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2.新たなる国王

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「聖女クレメリア、お前はクビだ」
「……え?」

 玉座の間にて告げられた言葉に、私は驚いた。
 目の前にいるのは、王位を継承したかつての第一王子アズガルト様だ。彼は、鋭い双方の瞳で私を睨みつけてくる。そこからは明確な敵意が読み取れた。
 しかし、私にはその敵意の意味がわからない。私は、彼が就任してからも聖女として尽力してきたはずなのだが。

「アズガルト様、それは一体どういうことですか?」
「無能な聖女は必要ないということだ」
「無能?」
「聖女クレメリア、お前は所詮父上の恩人の孫であるから、聖女の地位に就いたに過ぎない。その能力には、甚だ疑問がある。そのような者に、この国の聖女を任せられる訳がない」

 アズガルト様の言っていることが、私にはまったく理解することができなかった。
 自分で言うのもなんだが、私は優秀な魔法使いである。私よりも優秀な人がいないとは言わないが、それでも国内でも随一の実力者であるはずだ。決して、お祖母様が国王様と知り合いだったからこの地位に就いた訳ではない。

「アズガルト様、お言葉ですが、私はこの国の中でも五本の指に入る程に優秀な魔法使いであると自負しています。私が不適格であるというなら、一体誰が適任だというのですか?」
「口だけは達者であるようだな、聖女クレメリア。しかし残念ながら、俺は既にお前よりも優秀な女性を見つけている」
「それは一体……」

 私の言葉に、アズガルト様は笑みを浮かべていた。
 そこで彼の隣に、ドレスを着た女性が現れる。身なりからして、あれは貴族の女性だ。

「彼女は、ラナルナ・マナドア侯爵令嬢だ」
「ラナルナ・マナドア侯爵令嬢……?」

 アズガルト様から名前を告げられて、私は少し考えた。
 しかし、その令嬢の名前を私は聞いたことがない。優秀な魔法使いであるならば、一度くらいは耳にしたことがあると思うのだが。

「彼女こそが、真なる聖女に相応しい魔法使いだ」
「ふふっ……」

 ラナルナ嬢は、私に対して下卑た笑みを向けてきた。
 彼女が何者なのか、それはわからない。ただ少なくとも、彼女は私の味方ではないようだ。その表情から、それがよく伝わってくる。

「聖女クレメリア、あなたには聖女としての才能はありませんでしたが、ペテン師としての才能はあったようですね……ですが、それも今日で終わりです。これからは真の聖女である私が、この国の上に立つのですから」
「……という訳だ。聖女クレメリア、お前にはもう価値がないのだよ」
「そんな……」

 ラナルナ嬢とアズガルト様は、冷たい視線で私を見下ろす。
 こうして私は、聖女の地位を剥奪されたのである。
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