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63.お礼と要求

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「あなたが何を考えているのか、私には理解できません。ただ、今回は助かりました。一応、お礼を申し上げておきます。ご助力、ありがとうございました……」

 少し不満そうにしながらも、イムティア様はエバリス様にお礼を述べた。
 彼の行動原理は、未だにわかっていない。しかし現状、エバリス様は私達に味方してくれている。的確にイムティア様をサポートしてくれたのだ。
 そのお陰もあって、情勢は傾いている。反対派筆頭だったウォンバルト公爵の説得も合わせて、有力者達は心変わりしそうだ。

「礼などは不要です。私は、私が望むままに行動したまでですから」
「望むまま……あなたの望みとは一体、なんなのですか?」
「未来を掴み取ることです」

 イムティア様の質問に、エバリス様は即答した。
 だが、その言葉の意味はまったくわからない。非常に抽象的なことだからだ。

「未来、ですか?」
「時代というものは、移り変わるものです。この国はその変革期を迎えている。だというのに、古き考えを持つ者達は、あなたを認めなかった。その状況が、私は気に入らなかった」

 エバリス様の鋭い視線が、イムティア様に突き刺さった。
 彼は真剣な顔をしている。ただ、それが本心であるかはわからない。彼はずっと、よくわからない人なのだ。

「本当にそれだけなのですか? あなたには何か、大きな野心があるのではありませんか?」
「野心など、ありません」
「本当ですか?」
「疑いますね」
「もちろんです」

 イムティア様は、エバリス様が言っていることを信用していなかった。
 やはり彼は、少し胡散臭い。その言葉の全てを信じるべきではないだろう。

「もしも私が野心を抱いているとしたら、あなたはどうするというのですか? 先に私を潰しますか?」
「いいえ、あなたを引き入れます」
「引き入れる?」
「ええ、私はあなたを手に入れたいと思っています」

 そこでエバリス様は、初めてその表情を大きく変えた。
 イムティア様の言葉に、驚いているのだろう。それは当然だ。彼女がこんなことを言うなんて、私にとっても予想外である。

「エバリス様、私と婚約を結んでください」
「……なんですって?」
「あなたは強く賢い公爵令息です。そんなあなたが、私は欲しいと思いました。どうか私を傍で支えていただけませんか?」

 イムティア様は、ゆっくりとその手をエバリス様に伸ばしていた。
 彼女の目は真剣だ。それなりに長い付き合いなので、私にはわかる。イムティア様は本気なのだ。
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