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61.敵か味方か

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「皆さんもご存知である通り、王子であるアラヴェドは、父親である国王から実質的に王位を継げなくなっていました。彼は人格面に多少の問題があり、国王様はそれを重要視していました。今回の件は、その王位継承権剥奪が発端でしょう」

 エバリス様は、こちらが用意していた筋書きをほぼ述べていた。
 彼はこちらの計画を読んでいたのだ。そして恐らく、それを辿ることによって、自分の地位を確固たるものにしようとているのだろう。

「アラヴェドは、国王様の部屋を訪ねて、飲み物か何かに毒を仕込んだのでしょう。しかし彼は、もがき苦しむ父親の姿を見て、自らがしたことを後悔したのです。思う所があるとはいえ、父親です。王子はそこまで気が強い人でもない。実際に手を下したことによって、彼の心は折れたのでしょう。故に自室に戻り、自らも用意した毒を飲んだのです」

 イムティア様は、エバリス様のことをじっと見つめている。
 その表情は、冷静だ。最初は動揺していたが、既に思考は切り替わっているらしい。
 彼の推理を受けて、どう行動するのか。イムティア様は考えているのだろう。状況はかなり苦しい。何か得策でも見つかればいいのだが。

「王城は騎士団により厳しい警備がなされている。その王城に侵入者が入り、その者が二人を暗殺したというのは無理があります。内部、例えば我々などが犯人であるとも考えにくい。そんなことをしても得になる人はほとんどいません。リスクも大きいですしね。その点、この推理ならそれも解決します。王子は追い詰められていましたからね」
「な、何か証拠でもあるのかね?」
「いえ、これはまだあくまでも推論に過ぎません。しかし、すぐに証明されるでしょう」

 そこでエバリス様は、イムティア様の方に視線を向けた。
 その鋭い視線に、イムティア様は少し驚いている。ただ、彼女はすぐに真剣な顔になった。エバリス様と対峙する覚悟を決めたのだろう。

「エバリス様、それは一体どういうことですか?」
「王女よ。あなたは私と同じ推理をしていたのではありませんか? そして既に調査を開始している。そうですね?」
「……ええ」

 エバリス様の言葉に、イムティア様はゆっくりと頷いた。
 その表情は変わっていないが、少し動揺している様子だ。それはそうだろう。エバリス様は、何故かこちらの理になることを言っているのだから。
 先程まで敵だと思っていたはずの彼が、今は正反対の立場になっている。その立場の変遷に、私もまた動揺するのだった。
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