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60.公爵令息の推理

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「……皆さんをここに呼び出したのは他でもありません。今回の事件の犯人がわかったからです」

 有力者達を集めたエバリス様は、全員の前でゆっくりとそう呟いた。
 彼はいつもの不敵な笑みを浮かべている。その笑顔の真意が読めないというのが、怖い所だ。

「真犯人が誰かなどわかり切っていることだろう。イムティア以外あり得ない」
「ウォンバルト公爵、ここはどうかこの私の推理を聞いていただきたい。王女イムティアが犯人かどうかを議論するのは、その後でもいいでしょう?」
「若造が……」

 ウォンバルト公爵は、エバリス様のことを忌々しそうに睨みつけていた。
 大半は演技ではあるが、彼を忌々しく思っているのは本当だろう。イムティア様の味方である彼にとって、エバリス様の動きは非常に面倒なものだ。

「さて、私もったいぶるのは嫌いです。故に、犯人が誰であるかを告げるとしましょう」
「い、一体誰だというのだ? まさか、私などというつもりではないだろうな?」
「ご安心を。今回の事件の犯人はここにはいませんので」
「何?」

 ウォンバルト公爵は、エバリス様を牽制していた。彼の結論によってこちらの行動は色々と変わってくるため、探りを入れているのだろう。
 その結果わかったのは、彼がイムティア様を犯人だと思っていないということだ。彼女は確かにこの場にいるのだから、これから犯人として名指しされる訳はない。

「が、外部から侵入者があったのか?」
「いいえ、そうではありません。犯人は王子アラヴェド様です」
「な、なんだと?」

 エバリス様の言葉に、周囲の人々は驚いていた。
 もちろん、私も動揺している。その人物が犯人であると、エバリス様の口から出てくるとは思っていなかったからだ。

「な、何を馬鹿なことを……王子は、被害者だろう?」
「ええ、しかし、彼が今回の事件を引き起こしたというのは、紛れもない事実なのです。諸々の状況を整理すると、それが真実であると思えてくるのです」
「な、なんだと……?」

 アラヴェド様が犯人であるという結論は、私達が出そうとしていた結論である。
 それをエバリス様に言われた。それはイムティア様が犯人だと糾弾されるよりも、まずい状況である。

 この結論を私達は肯定も否定もできない。それを肯定するとイムティア様の功績が奪われるし、否定すると着地点がなくなってしまう。
 つまり、私達は一瞬にして追い詰められてしまったのだ。やはり行動が遅かった。エバリス様は、早く潰しておくべき人だったのだ。
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