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58.厄介な男
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「……犯人が犯人なんていう訳がないでしょう? あなたの懸念は理解することはできますが、あなたが犯人であるという確率は低いと思っています」
自らが犯人であるかもしれないと主張するエバリス様に、私はそのような言葉を返した。
やはり彼は、色々と気付いているのかもしれない。その奇妙な笑みに、私はそんな印象を覚えていた。
もしもそうならば、私はなんとかして彼を欺かなければならない。今回の計画が悟られてしまったら、全てが終わりだ。
「ふふ、それこそが真犯人の策略かもしれません。犯人かもしれないという犯人はいないという思い込みを利用している可能性がある」
「それは……」
エバリス様は、なんというかとても面倒くさいことを言ってきた。
彼はこの会話をどのように着地させたいのか。それがまったく読めずに、私は混乱してしまっている。
「……そんな風に言われてしまうと、本当にエバリス様が犯人であるように思えてしまいますよ?」
「ええ、私が犯人ですから」
「は?」
エバリス様は、さらに訳がわからないことを言ってきた。
彼の告白により、私は固まってしまう。当然のことながら、彼は犯人ではない。そんな彼が、何故こんなことを言うのだろうか。
その理由は、明白だ。彼はこちらの動揺を誘っている。動揺させて、ボロを出させようとしているのだ。
「いきなり何を言うかと思ったら……」
「おや、今のは自白ですよ?」
「冗談ではないのですか?」
「何故、冗談であると思うのでしょうか? もしかして、真犯人を知っているとか?」
「そういう訳ではありませんが……」
揺さぶられているということは、わかっている。故に私は、冷静に対応しなければならない。
それがわかっているのに、私は彼のペースに飲み込まれている。これはもしかしたら、まずい状況なのかもしれない。
「……あなたが今回の件の黒幕であるというなら、今すぐにでも王女イムティアの元に突き出しましょうか?」
「おっと……」
「今回の件なら、極刑は避けられないでしょう。それ程に重い罪です。あなたが偽証しているなら、それはそれで大きな罪ですが」
そんな私に、ナルギスが助け舟を出してくれた。
彼の眼光が、エバリス様を捉えて離さない。だが、エバリス様はそれでも笑っている。余裕な態度は崩れていない。
「すみません。お二方を少々試してたかったのです。どうかお許しください」
「試す?」
「こちらとしても、お二人が犯人であるという可能性は捨てきれませんからね。揺さぶってみたのです。しかしどうやら、お二人は犯人ではないようだ。それなら私も、協力したいと思えます」
エバリス様の態度に、私もナルギスも微妙な表情をせざるを得なかった。
彼は本当に厄介な人だ。その底が見えない。
彼を抑え込むのは、苦労しそうだ。ただそれでも成し遂げなければならない。イムティア様を王にするためにも。
自らが犯人であるかもしれないと主張するエバリス様に、私はそのような言葉を返した。
やはり彼は、色々と気付いているのかもしれない。その奇妙な笑みに、私はそんな印象を覚えていた。
もしもそうならば、私はなんとかして彼を欺かなければならない。今回の計画が悟られてしまったら、全てが終わりだ。
「ふふ、それこそが真犯人の策略かもしれません。犯人かもしれないという犯人はいないという思い込みを利用している可能性がある」
「それは……」
エバリス様は、なんというかとても面倒くさいことを言ってきた。
彼はこの会話をどのように着地させたいのか。それがまったく読めずに、私は混乱してしまっている。
「……そんな風に言われてしまうと、本当にエバリス様が犯人であるように思えてしまいますよ?」
「ええ、私が犯人ですから」
「は?」
エバリス様は、さらに訳がわからないことを言ってきた。
彼の告白により、私は固まってしまう。当然のことながら、彼は犯人ではない。そんな彼が、何故こんなことを言うのだろうか。
その理由は、明白だ。彼はこちらの動揺を誘っている。動揺させて、ボロを出させようとしているのだ。
「いきなり何を言うかと思ったら……」
「おや、今のは自白ですよ?」
「冗談ではないのですか?」
「何故、冗談であると思うのでしょうか? もしかして、真犯人を知っているとか?」
「そういう訳ではありませんが……」
揺さぶられているということは、わかっている。故に私は、冷静に対応しなければならない。
それがわかっているのに、私は彼のペースに飲み込まれている。これはもしかしたら、まずい状況なのかもしれない。
「……あなたが今回の件の黒幕であるというなら、今すぐにでも王女イムティアの元に突き出しましょうか?」
「おっと……」
「今回の件なら、極刑は避けられないでしょう。それ程に重い罪です。あなたが偽証しているなら、それはそれで大きな罪ですが」
そんな私に、ナルギスが助け舟を出してくれた。
彼の眼光が、エバリス様を捉えて離さない。だが、エバリス様はそれでも笑っている。余裕な態度は崩れていない。
「すみません。お二方を少々試してたかったのです。どうかお許しください」
「試す?」
「こちらとしても、お二人が犯人であるという可能性は捨てきれませんからね。揺さぶってみたのです。しかしどうやら、お二人は犯人ではないようだ。それなら私も、協力したいと思えます」
エバリス様の態度に、私もナルギスも微妙な表情をせざるを得なかった。
彼は本当に厄介な人だ。その底が見えない。
彼を抑え込むのは、苦労しそうだ。ただそれでも成し遂げなければならない。イムティア様を王にするためにも。
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