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55.予想外の事態

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「私の計画は、大まかに言うとお兄様にお父様への殺害容疑を擦り付けることでした。その事件を私が解決することによって、王の地位を手に入れ、邪魔なお兄様を排除する……そんな所ですね」
「……それなら、どうしてアラヴェド様は?」
「そこが、私にとっての一番の誤算でした。まさか、お兄様があんなことをするなんて……」

 イムティア様は、その表情を少しだけ歪めた。
 アラヴェド様の行動に、色々と思う所があるのだろう。その表情からは、彼女の複雑な感情が伝わってくる。

「王子アラヴェドは、一体何をしたのだ?」
「お兄様は毒を自ら飲んだのです。お父様が飲んでいたワインの飲み残しを飲んで……」
「ほう?」
「二人はワインを飲み交わしていたのです。その場でお父様は自ら毒を盛りました。そういう状況を作り上げ、お兄様に全ての罪を被ってもらうつもりだったんですが……彼はそれを悟って、死を選ぼうとしたのでしょうね」

 アラヴェド様がどこまでイムティア様の意図に気付いていたのかはわからない。
 ただ彼は悟ったのだろう。このままでは国王暗殺の罪を着せられると。

 王子である彼は、死刑にはならないだろう。ただそれでも、辺境などに追放されるのは確実である。
 それを耐えられないと思って、アラヴェド様は死を選んだのだろう。それはある意味、自然な流れであるような気がする。

「本来であれば、お兄様を追い詰める状況を作り出していくつもりだったのですが、大きく計画を変更せざるを得なくなりました。まあ、お兄様を犯人にするという大筋は変わりませんが……それでも色々と困っていました」
「計画を立て直すことはできたのか?」
「まあ、一応は……お兄様も無事に助かりましたし、後は彼の罪をでっちあげるだけです」

 イムティア様のやり方は、中々にあくどいものだ。アラヴェド様からしたら、溜まったものではないだろう。
 しかしその冷酷さも、王になるには必要なものなのかもしれない。アラヴェド様は、これから確実に邪魔になる訳だし。

「結果的にあなたは、ラフェリア嬢と同じようなことをしようとしているという訳か」
「ええ、そういうことになりますね。もっとも私は、罪のないお兄様を叩き落そうとしている訳ですが……」
「まったく、あなた方は本当に……」

 イムティア様の言葉に、ナルギスは笑みを浮かべていた。
 その笑みは、少し呆れたような笑みだ。
 結局私達は、イムティア様にまんまと騙されていた訳である。その事実には、私も苦笑いを浮かべることしかできなかった。
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