上 下
53 / 66

53.事件の首謀者は

しおりを挟む
「ナルギス、私はあなたが言っていることが理解できないわ。今回の件が暗殺でないというなら、一体なんだというの?」
「これは俺の予測にしか過ぎないが……今回の件は恐らく狂言だ」
「きょ、狂言……?」

 ナルギスの予測に対して、私は固まってしまった。
 先程から彼の言葉には困惑させられてばかりだ。それくらい、私の中にあった前提が覆されていっている。

「それはつまり、国王様やアラヴェド様が自ら毒を飲んだということ? 何のためにそんなことを?」
「考えられるのは、王女イムティアを王にするためだろう」
「イムティア様を王に?」
「彼女が、王国を揺るがす事件を解決する。それによって、箔をつけようとしているのではないだろうか」
「……それじゃあ、イムティア様も一連の事件のグルだと?」
「いや、俺は首謀者は彼女であると考えている」
「なっ……」

 ナルギスは、非常に冷静に自らの推論を語ってくれた。
 それは、驚くべきものである。ただ私は、その推論にある程度納得していた。思い返してみれば、確かに思い当たる節はある。
 しかし、その推論に穴がない訳ではない。私はそれを反論として、出すべきだろう。

「でも、アラヴェド様がイムティア様に協力するとは思えないわ。百歩譲って協力するにしても、自分に危険が及ぶことは避けるでしょうね」
「ふむ……それなら、国王の方だけが協力して、王子アラヴェドは巻き込まれたと考えるべきか。国王が自らとアラヴェドに毒を盛ったと考えれば、色々と納得できる」

 ナルギスが言っていることが本当であるならば、今回の事件の難解だった毒を仕込んだ方法と犯人は確かに解決する。
 国王様であれば、自分と息子に毒を盛ることは可能だ。最も容易に毒を仕込める人だといえるだろう。

「でも待って、ナルギス。仮にイムティア様が首謀者で、今回の事件で自分の地位を確保しようとしているとしても、そのためには犯人役がいるでしょう? それを捕まえて、やっとイムティア様は英雄になれる。その犯人役は、一体誰なの? その人はほぼ確実に……死刑になるのよ?」
「王女イムティアが、多少の犠牲も厭わない者であるならば、忠実な僕を一人犯人にすればいいだけだ」
「彼女は、そんな人ではないわ。目的のために、誰かを処刑台に送るなんて……」
「ラフェリア嬢、あなたは王女イムティアの善性を信じすぎているのではないか」
「それは……」

 ナルギスに指摘されて、私は自らの考えを少し改めることになった。
 私は確かに、イムティア様のことを清く見過ぎていたのかもしれない。
 彼女だって、目的のために手段を選ばないこともあるだろう。イムティア様だってただの少女ではなく、王族の一人であるのだから。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

ユウ
恋愛
婚約者を妹に奪われた伯爵家令嬢のアレーシャ。 我儘で世間知らずの義妹は何もかも姉から奪い婚約者までも奪ってしまった。 侯爵家は見目麗しく華やかな妹を望み捨てられてしまう。 そんな中宮廷では英雄と謳われた大公殿下のお妃選びが囁かれる。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

あなたに未練などありません

風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」 初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。 わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。 数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。 そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

妹とともに婚約者に出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様

新野乃花(大舟)
恋愛
フリード伯爵は溺愛する自身の妹スフィアと共謀する形で、婚約者であるセレスの事を追放することを決めた。ただその理由は、セレスが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしセレスは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、セレスを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。

処理中です...