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51.思わぬ味方

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「何を言い出すかと思えば、若輩者がくだらないことを……経験も考えも足りていないお前がおかしな主張をすると、この場が混乱するということがわからないのか?」
「それならば、答えていたきだい。この状況で、王と王子を亡き者にして王女イムティアに一体何の利があるのかを」

 エバリス様は、ウォンバルト公爵を睨みつけていた。
 親子程年が離れた相手に対して、彼は決して怯んでいない。その事実からは、彼の強靭な精神力が伺える。
 というか、むしろウォンバルト公爵の方が怯んでいるように見える。その対比によって、彼が大した人間ではないことがとてもよく理解できた。

「そ、そんなのは簡単なことだ。王が死に、王子も死ねば、王位は残ったイムティアのものになる。それは、当たり前の流れだ」
「……今回我々がここに来たのは、次なる王を決めるためです。その会議は、既に行われています。その結果は、あなたもよくわかっているでしょう」
「何が言いたい?」
「我々は、彼女が王になることに反対していた。そんな彼女がこのタイミングでこんなことをしたって、王になることはできないでしょう。それに、唯一の味方であった王を手にかける訳ありません」
「そ、それは……」

 エバリス様は、淡々と事実を口にしていた。
 それに対して、ウォンバルト公爵は黙ってしまっている。言い返す言葉が、出てこないらしい。

「……とにかく、私は王女イムティアが今回の件の犯人ではないと思っています。異を唱えたい方はいらっしゃいますか?」

 エバリス様は、さらに周囲の人々に問いかけた。
 その言葉にも、誰も答えない。彼の主張を覆せる理論を、誰も持っていないのだろう。
 エバリス様は、徹底的にイムティア様犯人説を潰していた。彼は、確信しているのかもしれない。イムティア様が犯人ではないということを。

「若造が、余計な真似を……」

 ウォンバルト公爵は、エバリス様を弱々しく睨みつけていた。
 彼にとって、自分の意見への反論は予想外のものだったのだろう。かなり動揺しているようだ。
 その視線を、エバリス様は意にも介さない。彼にとって、ウォンバルト公爵は取るに足らない存在であるようだ。

「こんなことになるとは予想していませんでしたが、これは私にとっては、幸運なことですね……」「ええ、これでイムティア様を犯人とすることは難しくなりました」
「ただ、問題は解決していません。一体、誰が二人に毒を盛ったのか……」

 イムティア様は、ゆっくりと周囲を見渡していた。
 彼女の表情からは、焦りが伝わってくる。やはり犯人を早急に見つけなければならない。このままではイムティア様が潰れてしまう。
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