上 下
50 / 66

50.王弟からの糾弾

しおりを挟む
「つまりですね、これは王女イムティアの陰謀なのです」

 集められた有力者達の前で、初老の男性はそのように宣言した。
 彼は、件のウォンバルト公爵である。イムティア様が目をつけていた国王様の弟は、彼女の予想通りの主張をしてきたのだ。

「あの二人を亡き者にして、誰が一番得するか、それは明白です。彼女はこれで、容易に王になることができる。今回の件の犯人は、彼女しかいないのです」

 姪であるイムティア様のことを、ウォンバルト侯爵は嬉々として糾弾していた。
 今回の件の犯人が、彼であるかはまだわかっていない。しかし例え犯人でなかったとしても、彼は最低の人間だ。
 この状況で、イムティア様を追い詰める。それがどれだけ、罪深いことか。私は公爵に対して、ふつふつと怒りが込み上げてきていた。

「ラフェリア嬢、心配はいりません。彼の言っていることは、根拠のないものです。流石にこれを鵜呑みにする人はいませんよ」
「それは私も、わかっているつもりです。しかし……」
「今はとにかく、見極めましょう。もしかしたら犯人は、この中にいるかもしれません。その手がかりが掴めるかもしれません」

 一方で糾弾されているイムティア様は、とても冷静であった。
 そんな彼女の言葉によって、私も少し冷めた。ウォンバルト公爵を許すことはできないが、今は成り行きを見守った方がいいということなのだろう。

「……ウォンバルト公爵、少しよろしいでしょうか?」
「む?」

 そこで、一人の男性がゆっくりと手をあげた。
 その男性は、有力者達の中でも一際若い男性だ。私達よりも、少しだけ年上といった所だろうか。

「お前は、エルビー公爵の倅……一体、何を言いたいというのだ?」
「ウォンバット公爵、私は王女イムティアが今回の事件の犯人足りえないと考えています」
「何?」

 その男性、エルビー公爵令息はウォンバルト公爵に対して堂々と言い切った。
 そのことに、周囲の人達は騒めき始める。まだ若い公爵が、王弟である彼に強い意見を出したということに、驚いているのだろう。
 正直な所、それは私も同じだった。まさかこの状況で、イムティア様を擁護する者が現れるとは思っていなかったからだ。

「イムティア様、彼は一体……」
「彼は、エルビー公爵令息……エバリス様です。エルビー公爵が病床に伏しており、その代理としてこちらにやって来た方ですが」

 イムティア様も、エバリス様の言葉には驚いている。つまり彼は、決してイムティア様の味方ではなかったということだろう。
 彼女に王位を継がせるのに反対するのと、彼女を今回の犯人にすること、その二人は結びつかないということだろうか。とにかく、エバリス様はこちらにとってはありがたい主張をしてくれるようだ。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた-- 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は-- ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...