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49.良くない状況

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「とりあえず、お父様が安定したということは喜ぶべき事実ではあります。お兄様の方も、助かってくれるといいのですが……」
「ええ、そうですね」

 部屋を訪ねた私達を、イムティア様はすぐに受け入れてくれた。
 彼女の顔は、昨日に比べると少し明るい。一晩休んだことや、国王様の容体が安定したことで少し気分が晴れたのだろう。
 とはいえ、状況は未だに芳しくない。アラヴェド様はまだ危機的状況であるし、事件のことは何一つとしてわかっていないのである。

「王女イムティア、今回の事件に関して考えていましたが、まずは毒を仕込んだ犯人ではなく、何に毒が仕込まれていたかを考えるべきではないでしょうか?」
「何に毒が仕込まれていたか、ですか……それは確かに、重要なことですね」
「そこから犯人……実行犯が見つかるかもしれません」
「なるほど、それならまずはそれを考えましょうか」

 ナルギスからの提案に、イムティア様はゆっくりと頷いた。
 私としても、その提案には同意である。二人がどこから毒の被害を受けたのか、それはとても重要なことだ。

「まず仮定しておきますが、今回の事件は王族を狙ったものであるはずです」
「ええ、そうでしょうね。私が被害を受けていないのは、何かしらの幸運があったと考えるべきだと思います」
「それなら、あなた方三人が共通して口にするものや触るものに毒を仕込んだ可能性が高い。何か心当たりはありませんか?」
「私達三人、ですか……」

 イムティア様は、ナルギスからの質問に頭を抱えていた。恐らく覚えがないのだろう。
 しかし、それは当然だ。相手もそんなにわかりやすい所に毒を仕込んだりはしない。ばれないにこしたことはないからだ。

「……ナルギス、二人とイムティア様には異なっている点があるわ」
「む?」
「当然のことではあるけれど、二人は男性でイムティア様は女性よ。その辺りの差が、関係している可能性はあるのではないかしら」
「なるほど、それは確かに考慮するべき点ではあるか」

 そこで私は、思いついたことを言ってみた。
 性別の違いが重要かどうかはわからない。ただ、その部分の差によってイムティア様が助かった可能性はない訳ではない。

「……もしくは、私のことを最初から狙っていなかったのかもしれません」
「イムティア様、それはどういうことですか?」
「状況を整理して思ったんです。もしかしたらこの事件の犯人は、私のことを犯人に仕立て上げようとしているのではないかと……そうしようとする人物に、私は心当たりがあります」
「……まさか」

 イムティア様からの言葉に、私はゆっくりと息を呑んだ。
 確かにその可能性はない訳ではない。あまりにも残酷なことではあるが、この状況で彼女が疑わないとは言い切れない。
 やはり状況は良くなさそうだ。何か大きな手がかりでも見つかればいいのだが。
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