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44.想定外の事態

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 何故こんなことになってしまったのか、私は思わず頭を抱えていた。
 確かに、私は部屋を頼んだ。しかしこうなることは、正直言って予想外だった。隣にいるナルギスを見ながら、私はただただ混乱している。
 元同僚の使用人に案内されたのは、二人部屋だった。ここで私は、ナルギスと一夜を明かすことになったのである。

「……どうかしたのか?」
「え? えっと、その……」
「……同部屋が嫌なら、あの時に事情を話せばよかっただろう?」
「いえ、そういう訳ではないのだけれど……」

 そこでナルギスは、私に訝しそうに視線を向けてきた。
 彼の言う通り、部屋に入る前に別室にして欲しいと要求することはできた。というか、そう要求しようとしたナルギスを止めたのは他ならぬ私である。
 そんな私がこんな態度をしているというのは、ナルギスにとって意味がわからないことだろう。

「俺に気を遣ってくれたということか? 同部屋を断ると俺が傷つくと思ったのなら、それはいらぬ気遣いだ。好いてもいない男と一夜を明かすなど普通は躊躇うことだ。俺達はまだあくまで婚約関係、夫婦ではない訳だしな」
「その、そういう訳ではないのよ。私はただ、あなたと同室が嫌ではないからあなたを止めたというだけで……」
「ほう?」

 私の言葉に、ナルギスは眉をひそめた。なんというか、少し嬉しそうだ。
 その反応が意外で、私は少し困惑してしまう。思っていた反応ではないのだが。

「なるほど、そういうことなら俺も遠慮する必要はないということか」
「え?」
「そういう意味の言葉ではないのか?」

 ナルギスは非常に真っ直ぐ、私の目を見てきた。
 その視線に、私は思い出す。彼との婚約が決まった日に、彼から何を言われたのかを。
 よく考えてみれば、ナルギスは好意などを隠すような人ではない。いとも容易く、愛を囁いてくる人だ。
 そんな彼に対して、私はなんと言っただろうか。私はそれを改めて考えることになった。

「今一度言っておくとしよう。俺はあなたのことを愛している。そう豪語している男との同室を、あなたは受け入れている。その状況を一度冷静に判断してもらいたい」
「あ、いや……」

 ナルギスの言葉に、私はとても困惑してしまっている。
 一体私は、なんと返答するべきなのだろうか。それが自分でもよくわからない。

「……何か外が騒がしいな」
「え?」
「少し様子を見て来る。あなたはここにいてくれ」
「あ、待って。私も行くわ」

 話に夢中になっていた私は、ナルギスに言われて初めて外が騒がしいことに気付いた。
 もしかしたら、王城で何か問題が起こっているのかもしれない。それを悟った私は、自然とナルギスについて行くのだった。
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