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36.強力な証人達
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「こ、これはっ……!?」
私の合図から程なくして、部屋の中に数人の人間が入ってきた。
その面々を見ながら、お父様は目を丸くしている。
それは当然のことだ。姿を見れば、誰だって理解することができる。彼らがこの国の秩序を担う騎士であるということが。
「な、何故騎士がこんな所に……それに、お前は!」
「……」
そこでお父様は、とある一人の人物を指差した。
その人物は、お父様に対して冷たい視線を向けている。恐らく、彼は怒っているのだろう。お父様の父親とは思えない行いの数々に。
「ノルヴァ・バルガナス……騎士団長」
「エルバラス侯爵、あなたと会うのは久し振りですね。しかしまさか、このような形で再会することになるとは思いもしませんでした」
「ば、馬鹿な……騎士団の総大将が、こんな所にどうしている?」
お父様は、ノルヴァさんに対してひどく困惑している様子だった。
きっとよく理解しているのだろう。この国の騎士団長がどういう人であるかということを。そして、どれだけの発言力を持つかということを。
お父様の額から、ゆっくりと汗が流れる。どうやらかなり追い詰められているようだ。
「そのようなことは、この際どうでもいいことです。重要なのは、あなたの行いだ。父親が、実の娘を手にかけようなど、なんと愚かなことか……同じ子を持つ親として、私はあなたのことを軽蔑します」
「な、何をっ……」
「ことの成り行きは、確かに見ていました。ここにいる騎士達全員が証人です。あなたには必ず裁きを受けさせる。騎士団の名にかけて、我々はあなたを許さない」
ノルヴァさんは、丁寧ながらも荒々しい口調でお父様にそう言った。
真っ当な親である彼にとって、お父様の行いがどれだけ許せないことなのか。それは私にはよくわからない。
ただ私は、そんな彼の愛を利用したことに、少し罪悪感を覚えていた。
「許さないだと、この私に逆らうというのか!」
「我々の力は、あなただって知っているでしょう。いくら侯爵家の権力があっても、私の証言は覆らない」
「うぐっ……」
お父様は、ノルヴァさんに少し気圧されていた。
この国の秩序を守る騎士団長は、ちっぽけなお父様にとって大きすぎる相手ということだろうか。どうやら二人の間には、決定的な差があるようだ。
「私の権力を使えば、罪など消し去ることができる!」
「そもそも、あなたに権力なんてものが残るとでも思っているのですか? あなたに従う者は、あくまで侯爵家の名誉に従っているだけに過ぎない。娘を殺そうとしたあなたを擁護する者なんていると思いますか? わざわざ泥船に乗る馬鹿がどこにいるというのでしょうか?」
「……くそっ!」
ノルヴァさんの淡々とした言葉に、お父様は唸った。
意気消沈したお父様の視線は、騎士団長から私に向いた。
その目には闘志は残っていない。しかしそれでも、その両の目はしっかりと私を捉えている。つまりお父様は、状況が覆らないことがわかっていても、私に何か言うつもりなのだろう。
私の合図から程なくして、部屋の中に数人の人間が入ってきた。
その面々を見ながら、お父様は目を丸くしている。
それは当然のことだ。姿を見れば、誰だって理解することができる。彼らがこの国の秩序を担う騎士であるということが。
「な、何故騎士がこんな所に……それに、お前は!」
「……」
そこでお父様は、とある一人の人物を指差した。
その人物は、お父様に対して冷たい視線を向けている。恐らく、彼は怒っているのだろう。お父様の父親とは思えない行いの数々に。
「ノルヴァ・バルガナス……騎士団長」
「エルバラス侯爵、あなたと会うのは久し振りですね。しかしまさか、このような形で再会することになるとは思いもしませんでした」
「ば、馬鹿な……騎士団の総大将が、こんな所にどうしている?」
お父様は、ノルヴァさんに対してひどく困惑している様子だった。
きっとよく理解しているのだろう。この国の騎士団長がどういう人であるかということを。そして、どれだけの発言力を持つかということを。
お父様の額から、ゆっくりと汗が流れる。どうやらかなり追い詰められているようだ。
「そのようなことは、この際どうでもいいことです。重要なのは、あなたの行いだ。父親が、実の娘を手にかけようなど、なんと愚かなことか……同じ子を持つ親として、私はあなたのことを軽蔑します」
「な、何をっ……」
「ことの成り行きは、確かに見ていました。ここにいる騎士達全員が証人です。あなたには必ず裁きを受けさせる。騎士団の名にかけて、我々はあなたを許さない」
ノルヴァさんは、丁寧ながらも荒々しい口調でお父様にそう言った。
真っ当な親である彼にとって、お父様の行いがどれだけ許せないことなのか。それは私にはよくわからない。
ただ私は、そんな彼の愛を利用したことに、少し罪悪感を覚えていた。
「許さないだと、この私に逆らうというのか!」
「我々の力は、あなただって知っているでしょう。いくら侯爵家の権力があっても、私の証言は覆らない」
「うぐっ……」
お父様は、ノルヴァさんに少し気圧されていた。
この国の秩序を守る騎士団長は、ちっぽけなお父様にとって大きすぎる相手ということだろうか。どうやら二人の間には、決定的な差があるようだ。
「私の権力を使えば、罪など消し去ることができる!」
「そもそも、あなたに権力なんてものが残るとでも思っているのですか? あなたに従う者は、あくまで侯爵家の名誉に従っているだけに過ぎない。娘を殺そうとしたあなたを擁護する者なんていると思いますか? わざわざ泥船に乗る馬鹿がどこにいるというのでしょうか?」
「……くそっ!」
ノルヴァさんの淡々とした言葉に、お父様は唸った。
意気消沈したお父様の視線は、騎士団長から私に向いた。
その目には闘志は残っていない。しかしそれでも、その両の目はしっかりと私を捉えている。つまりお父様は、状況が覆らないことがわかっていても、私に何か言うつもりなのだろう。
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