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32.準備完了

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 エルバラス侯爵家に帰宅した私は、先にメレティアが帰ってきていないという事実に少しだけ驚いた。
 どうやらメレティアは、侯爵家に帰宅する前に旅行しているらしい。王城の件で溜まったストレスを解消しているといった所だろうか。なんというか、呑気なものだ。

「なるほど、俺が知らない間に、王城は揺れていたという訳か……」
「ええ、私もこんなことになるなんて思っていなかったわ」
「国王様の手が早かったのは、息子のことを心のどこかで疑っていたから、ということなのだろうか?」
「もしかしたら、そうなのかもしれないわね……」

 そんなエルバラス侯爵家の屋敷で、私はナルギスと話をしている。
 彼は私が帰宅してすぐに、屋敷を訪ねてきた。名目上は私を訪ねてきたということになっているが、それはお父様との密会をするための訪問である。
 ただ実の所、お父様との密会がダミーであり、ナルギスは本当に私を訪ねてきた。そんな少々ややこしい状況なのである。

「しかし、あなたが不在の間にこちらも計画を順調に進めてきた。仕込みは既に終わっている。後はエルバラス侯爵次第だ」
「……恐らくお父様は、近々計画を実行に移すと思うわ。メレティアが帰ってくる前に、全てを終わらせておきたいでしょうからね。それはこちらにとって好都合だわ」

 王城で何があったかは、お父様の耳にも既に入っているだろう。
 ただ、今の所私とナルギスとの婚約破棄などは行われていない。それはお父様が、メレティアのことを待っているからだ。
 お父様は、メレティアの言葉を聞いてから行動を移すつもりなのだろう。その猶予が、私達にとってはとてもありがたいものなのだ。

「このまま私とあなたの婚約が成立した状態で、お父様を失脚させることができれば、このエルバラス侯爵家はあなたと私のものになる。そうすれば、全てが終わる……」
「そのためには、今回の計画を成功させる必要がある訳だ。当然、失敗するつもりは毛頭ないが、それでも心配だな……」
「大丈夫よ、ナルギス。私はあなたを信じているわ」
「ありがとう……それで、騎士団の者達は?」
「私について来てくれているわ。今も多分、私のことを見守ってくれているはず……」

 こちらの準備は、既に終わっている。後は、お父様が計画を実行に移すのを待つだけだ。
 それを理解している私の体は、震えていた。
 正直な所、恐怖はある。だがそれでも、私は止まらない。このエルバラス侯爵家との戦いに決着をつけるのだ。
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