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29.国王の策略

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「なっ……」
「……え?」

 私から少し遅れて、アラヴェド様とメレティアは気付いた。その場にいつの間にか、国王様が現れていたということに。
 二人は固まっている。訳がわからないといった様子だ。それは当然である。彼らにとって、この場面は決して国王様に見られたくないものだ。

「カルトア、ご苦労だったな。もう良いぞ」
「はい、国王様」

 そこで国王様は、先程までアラヴェド様とメレティアが虐げていたメイドに声をかけた。
 彼女は、先程までとは打って変わって無機質な声で返答する。それによって、私は理解した。彼女が何者であるのかということを。

「父上、これは一体……」
「この子は、わしの腹心の一人だ。お主にもイムティアにも知らせていない、わしの懐刀だ。そういった伏兵をわしは何人も抱えておる。そういった者達は、こういう時に役に立つ」

 アラヴェド様の疑問に、国王様はゆっくりとそう答えた。
 その声色は、私が知っているいつもの穏やかな国王様とは違う。とても暗く、鋭い声色だ。
 やはり国王様も、この国を治める王であるということなのだろう。そこには、確かなる威厳が存在している。

「わしはこの子を使って、そちらのメレティア嬢の王妃としての資質について調べようと思っていた。まさか、息子の王としての資質まで問うことになるとは思っていなかったが……」
「父上、これは違うのです。誤解……全ては誤解なのです」
「ええ、そうです。このような罠で、私達の資質を問うなんて間違っています」

 二人は、国王様に向かって言い訳を始めた。
 しかし一部始終を見ていたはずの彼には、そんな言葉は届かないだろう。事実として国王様も、呆れたような顔をしている。

「これはわし個人の考えではあるが、国王や王妃というものは寛大な心を持つべきだと思っている。民を愛し、民に愛される。それが正しい統治者の姿だ。故にわしは、そのような心を持つ者を次の王にしたいと思っていた。その条件に、どうやらお主達はそぐわぬようだ」
「ち、父上、考えを改めください」
「アラヴェドよ。お主の噂は常々聞いてきたが、それらも本当だったという訳か……わしはお主に篭絡されていたということだ。そろそろ引き際ということなのだろう。また間違いを犯す前にわしはお主とともに沈むとしよう」

 国王様は、目を瞑って悲しそうな声色でそう呟いた。
 それはきっと、息子のことを信じたかったということなのだろう。
 ただ、その想いによって彼はアラヴェド様の蛮行を止められなかった。それは確かに、責任を取るべきことであるだろう。
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