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28.現れた人物

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「私の行いで、メレティア様に不快な思いを……」
「前置きは必要ありません。早く、頭を下げてください」

 メイドは、地に手をつけて謝罪を始めようとしていた。
 その所作には躊躇いがある。それは当然だ。騒ぎを聞きつけて、辺りには人が集まっているし、この状況で謝罪するのはかなり勇気がいるだろう。
 それでも彼女は、ゆっくりと頭を下げていく。それを見下ろすメレティアの目は、とても冷たい。

「……待て」
「え?」

 だがメイドの頭が床につく前に、彼女を止める声が辺りに響いた。
 私はその声が聞こえてきた方向に目を向ける。するとそこには、見知った男性がいた。この国の第一王子、アラヴェド様である。

「あら? アラヴェド様ではありませんか。どうしてこちらに?」
「メレティア、君が中々に訪ねて来ないから、様子を見に来たんだ。しかし何やら、面白いことになっているようだな?」

 アラヴェド様は、下卑た視線でメイドのことを見ていた。
 私は一瞬、彼がまともな感性から彼女のことを止めたと思った。
 しかし違うのだ。彼はそういう人間ではないのである。彼の顔を見て、私はそれを改めて実感することになった。

「このメイドは、何をしたんだ?」
「私の目の前で、荷物を落としたんです」
「ほう、それはよくないな……」

 アラヴェド様の質問に、メレティアは嬉々として答えていた。
 その返答に彼は笑う。それは本当に邪悪なる笑みだ。

「それできちんと頭を下げるように要求していたのですけれど……」
「なるほど、それはいい案ではある。しかし、彼女がしたことを考えるともう少し重たい罰を与えるべきではないだろうか」
「重たい罰? 鞭打ちでもしようというのですか?」
「ふふ、僕もそこまで鬼ではないさ。そうだな……服でも脱いでもらったらどうだ。丁度、ギャラリーも多くいる訳だし、彼女にとってはいい罰になるだろう」
「あら……それは面白そうですね」」

 二人の会話に、私はただただ困惑していた。この二人は何を言っているのだろうか。それがよくわからない。
 同じ人間の言葉なのだろうか。そのような疑問さえ、私は覚えていた。
 しかし、困惑している場合ではない。私は今度こそ二人を止めなければならない。

「あなた達、いい加減に……」
「ラフェリア嬢……少し待ってくれ」
「え?」

 だが私は、またもその言葉を遮られてしまった。
 ただ先程と違い、遮ったのはメイド本人ではない。私の横に立つ男性だ。
 その人物は、この国の国王様である。彼はいつの間にか、この場に現れていたのだ。
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