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27.度を越した要求
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「……あなた、何を考えているんですか?」
「す、すみません」
「まったく、王城のメイドであるというのに教育も行き届いていないなんて信じられません。やはりお姉様が務めていた所は程度が低いですね」
廊下の曲がり角を曲がった私は、目の前の光景に一瞬固まってしまった。
そこにいるのは、メレティアとメイドだ。どうやら妹は、何か粗相をしたメイドを叱りつけているらしい。
「あなたの愚かなる行いによって、私はとてつもない不快感を覚えました。謝罪していただかなければ、腹の虫が収まりません」
「申し訳ありませんでした……」
「はあ、王城のメイドは謝罪することもろくにできないのですか? レベルの低さに呆れ果ててしまいます。謝罪というのは、もっと頭を下げてするべきことですよ。ほら、地に頭をつけて私に謝りなさい」
メレティアの主張は、一から十まで間違っているという訳でもないだろう。
メイドが客人の前で粗相をした。それは確かな失態である。謝罪するべき事柄だ。
しかしメレティアの要求は、度を越えている。明らかなやり過ぎだ。
「メレティア、あなた……」
「……ラフェリア様、よいのです」
「え?」
私は、メレティアを止めようとした。
しかしそれは、彼女にいびられていたメイドに制止された。
それに私は、面食らってしまう。どうして彼女が、私を止めるのだろうか。
「これは私が起こしてしまったミスです。メレティア様が言っていることはごもっともなのです」
「だ、だけど……」
「私は、私が起こした罪の責任を取ります。ただ、それだけのことなのです」
メイドは、震えている。明らかに、メレティアに怖がっている様子だ。
だがそれでも、彼女はメレティアに正面から立ち向かうつもりであるらしい。それはもしかしたら、彼女のメイドとしての矜持なのだろうか。
それは確かに、立派な心掛けである。ただ、私は同じ貴族の人間として、メレティアの横暴を見逃すことはできない。
「あなたの言っていることはわかります。でもあなたがメイドとしての矜持を持っているように、私にも貴族の矜持というものが……」
「……」
「……あれ?」
そこで私は、少し違和感を覚えた。
そういえば、目の前にいるメイドは誰なのだろうか。王城にいた私は、ここで働くメイドのことはよく知っている。そんな私が見たことないメイド、つまり彼女は新人さんなのだろうか。
ただなんというか、そのような感じではないような気がする。私を見つめる彼女の瞳は力強い。場数を踏んでいない新人のメイドに、そのような目ができるだろうか。
「メレティア様、申し訳ありません。今、謝罪しますから……」
「ふふっ、それでいいんです」
私が困惑している間に、メイドは床に膝をつけた。
本当に、彼女はメレティアの言う通り謝罪をするつもりらしい。
そんな彼女に、私は何も言えなくなっていた。彼女の気迫に、私はすっかり気圧されてしまったのである。
「す、すみません」
「まったく、王城のメイドであるというのに教育も行き届いていないなんて信じられません。やはりお姉様が務めていた所は程度が低いですね」
廊下の曲がり角を曲がった私は、目の前の光景に一瞬固まってしまった。
そこにいるのは、メレティアとメイドだ。どうやら妹は、何か粗相をしたメイドを叱りつけているらしい。
「あなたの愚かなる行いによって、私はとてつもない不快感を覚えました。謝罪していただかなければ、腹の虫が収まりません」
「申し訳ありませんでした……」
「はあ、王城のメイドは謝罪することもろくにできないのですか? レベルの低さに呆れ果ててしまいます。謝罪というのは、もっと頭を下げてするべきことですよ。ほら、地に頭をつけて私に謝りなさい」
メレティアの主張は、一から十まで間違っているという訳でもないだろう。
メイドが客人の前で粗相をした。それは確かな失態である。謝罪するべき事柄だ。
しかしメレティアの要求は、度を越えている。明らかなやり過ぎだ。
「メレティア、あなた……」
「……ラフェリア様、よいのです」
「え?」
私は、メレティアを止めようとした。
しかしそれは、彼女にいびられていたメイドに制止された。
それに私は、面食らってしまう。どうして彼女が、私を止めるのだろうか。
「これは私が起こしてしまったミスです。メレティア様が言っていることはごもっともなのです」
「だ、だけど……」
「私は、私が起こした罪の責任を取ります。ただ、それだけのことなのです」
メイドは、震えている。明らかに、メレティアに怖がっている様子だ。
だがそれでも、彼女はメレティアに正面から立ち向かうつもりであるらしい。それはもしかしたら、彼女のメイドとしての矜持なのだろうか。
それは確かに、立派な心掛けである。ただ、私は同じ貴族の人間として、メレティアの横暴を見逃すことはできない。
「あなたの言っていることはわかります。でもあなたがメイドとしての矜持を持っているように、私にも貴族の矜持というものが……」
「……」
「……あれ?」
そこで私は、少し違和感を覚えた。
そういえば、目の前にいるメイドは誰なのだろうか。王城にいた私は、ここで働くメイドのことはよく知っている。そんな私が見たことないメイド、つまり彼女は新人さんなのだろうか。
ただなんというか、そのような感じではないような気がする。私を見つめる彼女の瞳は力強い。場数を踏んでいない新人のメイドに、そのような目ができるだろうか。
「メレティア様、申し訳ありません。今、謝罪しますから……」
「ふふっ、それでいいんです」
私が困惑している間に、メイドは床に膝をつけた。
本当に、彼女はメレティアの言う通り謝罪をするつもりらしい。
そんな彼女に、私は何も言えなくなっていた。彼女の気迫に、私はすっかり気圧されてしまったのである。
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