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22.ある種の信頼

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「作戦に賛同はしたが……しかしながらそれでも疑問がある。エルバラス侯爵は、本当にあなたを手にかけようとするのか? 曲がりなりにも実の娘をそう簡単に亡き者にしようと考えるのだろうか?」
「ええ、そう考えると思うわ」

 ナルギスの言葉に、私は特に考えるまでもなく頷いた。
 確かに、彼の言っていることには一理ある。普通の親なら、少しくらい親としての情を持つものだろう。

「ある意味において、私はお父様のことを信頼しているわ。お父様なら邪魔になった私を特に躊躇うこともなく手にかけるはずよ。親子の情なんてないわ」
「そういうものか……それなら、エルバラス侯爵家はどうするつもりなのだ? メレティアが王子に嫁ぐ以上、そこは空白になるだろう」

 ナルギスは、さらに疑問を口にしてきた。
 認めたものの、作戦を中止できるならそうしたいのかもしれない。彼の口調からは、そんな感情が読み取れる。

「それは、あなたに任せられると考えると思うわ。私と結婚したあなたがしばらく管理して、何れはメレティアの子供に継がせる。未来がどうなるかはわからないけれど、お父様はそれを理由に私の殺害を止めようなんて思う人ではないわ」
「つくづく忌々しい男だ……」
「私はそんなお父様の冷酷さを利用するのよ」

 当然のことながら、私は死ぬつもりはない。つまり、お父様には殺人未遂の罪を犯してもらうつもりだ。
 私の命が危機に晒されることにはなるが、これは成功すればまず間違いなくお父様を失脚させることができる。リスクはあるが、これは非常に有効な作戦なのだ。

「ナルギス、あなたには重要な役目を担ってもらうことになるけど……」
「それは構わない。しかしよく思いついたものだ。エルバラス侯爵に、あなたが弱みを握ろうとしていることを伝えるなんて……」
「それはナルギス、あなたが今までやってきたことじゃない。今回の作戦のためには、あなたがお父様からさらに信頼される必要があるわ。そのためには多少の真実をお父様に伝えた方がいい……」

 ナルギスには、私を陥れている振りをしてもらう。
 私のことを敵視しているお父様にとって、それを伝えたナルギスはとても信頼できる存在になるはずだ。その信頼が、私の安全を担保してくれる。

「まあ、その後は取り入ったあなたに随分と委ねることになるわね。上手くやって、私の安全を確保してもらいたいの」
「もちろんだ。俺にとって、それは最優先事項だ」
「お父様は、私の死を絶対に見届けるはず。必ず勝ち誇って、私に全てを話してくれるわ。その現場を押さえる。幸いにもイムティア様という伝手もあるし、これならお父様を失脚させることができるわ」
「難しい作戦ではあるが……成功させるしかないか」

 私の説明に、ナルギスは拳を握り締めていた。
 今回の作戦は、失敗することが許されない。それがわかっているからこそ、彼は決意を固めているのだろう。
 やるべきことはナルギス程多くはないが、私も彼と同じように覚悟を決めなければならない。私達は、お父様に打ち勝つのだ。
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