上 下
22 / 66

22.ある種の信頼

しおりを挟む
「作戦に賛同はしたが……しかしながらそれでも疑問がある。エルバラス侯爵は、本当にあなたを手にかけようとするのか? 曲がりなりにも実の娘をそう簡単に亡き者にしようと考えるのだろうか?」
「ええ、そう考えると思うわ」

 ナルギスの言葉に、私は特に考えるまでもなく頷いた。
 確かに、彼の言っていることには一理ある。普通の親なら、少しくらい親としての情を持つものだろう。

「ある意味において、私はお父様のことを信頼しているわ。お父様なら邪魔になった私を特に躊躇うこともなく手にかけるはずよ。親子の情なんてないわ」
「そういうものか……それなら、エルバラス侯爵家はどうするつもりなのだ? メレティアが王子に嫁ぐ以上、そこは空白になるだろう」

 ナルギスは、さらに疑問を口にしてきた。
 認めたものの、作戦を中止できるならそうしたいのかもしれない。彼の口調からは、そんな感情が読み取れる。

「それは、あなたに任せられると考えると思うわ。私と結婚したあなたがしばらく管理して、何れはメレティアの子供に継がせる。未来がどうなるかはわからないけれど、お父様はそれを理由に私の殺害を止めようなんて思う人ではないわ」
「つくづく忌々しい男だ……」
「私はそんなお父様の冷酷さを利用するのよ」

 当然のことながら、私は死ぬつもりはない。つまり、お父様には殺人未遂の罪を犯してもらうつもりだ。
 私の命が危機に晒されることにはなるが、これは成功すればまず間違いなくお父様を失脚させることができる。リスクはあるが、これは非常に有効な作戦なのだ。

「ナルギス、あなたには重要な役目を担ってもらうことになるけど……」
「それは構わない。しかしよく思いついたものだ。エルバラス侯爵に、あなたが弱みを握ろうとしていることを伝えるなんて……」
「それはナルギス、あなたが今までやってきたことじゃない。今回の作戦のためには、あなたがお父様からさらに信頼される必要があるわ。そのためには多少の真実をお父様に伝えた方がいい……」

 ナルギスには、私を陥れている振りをしてもらう。
 私のことを敵視しているお父様にとって、それを伝えたナルギスはとても信頼できる存在になるはずだ。その信頼が、私の安全を担保してくれる。

「まあ、その後は取り入ったあなたに随分と委ねることになるわね。上手くやって、私の安全を確保してもらいたいの」
「もちろんだ。俺にとって、それは最優先事項だ」
「お父様は、私の死を絶対に見届けるはず。必ず勝ち誇って、私に全てを話してくれるわ。その現場を押さえる。幸いにもイムティア様という伝手もあるし、これならお父様を失脚させることができるわ」
「難しい作戦ではあるが……成功させるしかないか」

 私の説明に、ナルギスは拳を握り締めていた。
 今回の作戦は、失敗することが許されない。それがわかっているからこそ、彼は決意を固めているのだろう。
 やるべきことはナルギス程多くはないが、私も彼と同じように覚悟を決めなければならない。私達は、お父様に打ち勝つのだ。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

ユウ
恋愛
婚約者を妹に奪われた伯爵家令嬢のアレーシャ。 我儘で世間知らずの義妹は何もかも姉から奪い婚約者までも奪ってしまった。 侯爵家は見目麗しく華やかな妹を望み捨てられてしまう。 そんな中宮廷では英雄と謳われた大公殿下のお妃選びが囁かれる。

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

あなたに未練などありません

風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」 初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。 わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。 数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。 そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。

新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

処理中です...