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21.密かな訪問(モブ視点)

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 ナルギス・バルラットは、密かにエルバラス侯爵家を訪ねて来ていた。
 それは決して、誰にも悟られてはならない話があったからだ。その話をする対象は、その屋敷の主であるエルバラス侯爵である。

「ラフェリアに取り入っただと?」
「ええ、彼女にはあることないこと吹き込んで、味方だと思わせています」
「あれはお前のことを信じているのか?」
「ええ、信頼されていると自負しています」

 ナルギスの表情には、感情がない。彼はただ淡々と、言葉を述べるだけである。
 そんな彼に対して、エルバラス侯爵は特に反応しない。それが二人のいつものやり取りなのである。

「一体、どのような手を使ったのだ?」
「一目惚れしたと愛の言葉を呟いたら、簡単に信じてもらえました。ラフェリア嬢は愛に飢えているようですね」
「ははっ! 無様なものだな。信じている婚約者が、この私の僕であるというのは……」

 エルバラス侯爵は、笑っていた。その笑いは、心底ラフェリアを馬鹿にしたものだ。
 邪魔な娘が、騙されている。その事実が、エルバラス侯爵にはおかしくてたまらないのだ。

「しかし、ラフェリアの計画というものは見過ごす訳にはいかないものだ。この私の弱みを握ろうとはなんと小賢しいことか……」
「……個人的な考えではありますが、ラフェリア嬢は油断できない人だと思います。彼女は優秀だ。もしかしたら、本当にあなたの弱みまで辿り着くかもしれません」
「ふんっ……」

 ナルギスの言葉に、エルバラス侯爵は真剣な表情になった。
 彼も本当はわかっているのだ。ラフェリアが油断できない相手であると。
 故にエルバラス侯爵家は悩んでいた。ラフェリアをどうするべきかを。

「こちらも上手くコントロールするつもりですが、彼女をどこまで制御できるかはわかりません。手強い相手だと思います。このまま婚約してもいいものか……正直微妙な所です」
「確かにそうだな。元々、あの娘にはこのエルバラス侯爵家を渡すつもりなどなかった。これは想定外の状況だ」
「どうされますか? 何か対策でも?」
「……いや、ラフェリアが生きている限り、我々が安心することができない。あの娘は今までも邪魔者であったが、最早看過できない存在になった。この私を失脚させようというなら、こちらも厳正な処罰を下すとしよう。ナルギス、お前にその準備を任せるぞ?」

 エルバラス侯爵は、下卑た笑みを浮かべていた。
 彼は、いとも簡単に実の娘を手にかけることを決めたのである。
 それを見ながら、ナルギスは思っていた。

(驚いたな……本当に、何から何までラフェリア嬢の想定通りだ)
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