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11.わからない人

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 目の前にいる男性は、私に対して穏やかな目を向けてくる。
 その様子に、私は未だに混乱していた。予想していた状況とはまったく違って、理解がまったく追いつてこない。

「えっと、最初に質問しておきたいのだけれど、あなたはお父様のことを尊敬しているはずだったわよね? 多くの人から、そのように聞いているのだけれど……」
「ふむ、もしもそうだったとしたら、どうしたというのだろうか?」
「お父様を尊敬しているなら、私に対してこのような態度はしないと思うの。お父様はその、私のことを疎んでいるから……」
「なるほど……」

 とりあえず私は、ナルギスに一番気になっていることを聞いてみることにした。
 彼がお父様の手の者なのかどうか、それはとても重要なことである。本当のことを言ってくれるかどうかはわからないが、それでも聞かずにはいられない。

「はっきりと言っておこう。俺はエルバラス侯爵のことなど尊敬していない。むしろ、軽蔑している。あの男は最低の人間だ。法が許すならば、切り捨てたいくらいだ」
「え? あの……」

 ナルギスの言葉がとても過激であったため、私は思わず固まってしまった。
 演技でここまで憎悪を露わにできるだろうか。それは微妙な所である。やはり、これは本心であると考えるべきだろうか。
 しかしそうだとすると、疑問が湧いてくる。彼はどうして、そこまで嫌っている相手を尊敬しているなどと言っているのだろうか。

「あなたは一体、何を考えているの? 私には、あなたの行動原理というものがよくわからないわ。一貫性がないもの。お父様を軽蔑しているなら、どうして尊敬しているという態度を取っているの?」
「その方が都合がいいからだ。侯爵のことは軽蔑しているが、尊敬しているという態度を取った方が動きやすい」
「動きやすい……?」
「侯爵を油断させられるということだ。またその懐に入り込むことによって、このようにあなたとも婚約することができた」

 ナルギスは、私に対して意味深な視線を向けてきた。
 なんというか、彼は先程から私との婚約を強調しているような気がする。それは彼にとって、そんなに大切なことなのだろうか。それも聞いておいた方がいいのかもしれない。

「私との婚約は、あなたにとってそんなに重要なことなのかしら?」
「もちろんだ。そうだな……いい機会だ。伝えておこう、俺はあなたのことを愛している」
「……は?」

 私は、ナルギスの言葉にまたも固まることになった。
 彼という人間が、やはり私にはわからない。彼は一体、何を考えて何を思い、この場にいるというのだろうか。
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