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7.不穏な予感

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 私は、王城の中を歩いていた。
 その廊下は、メイドとして歩いてきた所だ。そこを今は、第一王子の婚約者として歩いている。それはなんだか、変な話だ。

「それにしても、アラヴェド様は曲者ね……」

 アラヴェド様とは何度か話を重ねてきた。
 話せば話す程、彼とは折が合わないと思ってしまう。少なくとも私は、彼の言う相応しい婚約者には絶対になり得ない。
 また、やはり彼は王になるべき人物であるとは思えなかった。彼が王になると、この国は大変なことになってしまうだろう。

「……え?」

 そんなことを考えながら歩いていた私は、見知った顔を見つけて足を止めることになった。
 ここは王城であるため、かつての同僚などはいる。しかし廊下の向こう側から歩いてくるのは、この王城にいるはずがない人物だ。

「あら、お姉様ではありませんか」
「メレティア……どうしてあなたがここに?」

 私の目の前までやって来たのは、間違いなく私の妹である。
 どうして彼女がここにいるのか、それが私にはわからない。メレティアが王城に用事なんて、ないはずなのだが。

「ふふ、どうしてでしょうね? でも、それをお姉様にわざわざ教える義理はありませんよ」
「……なるほど」

 私の質問に、メレティアは笑顔を返してきた。
 彼女がこういう笑顔をする時は、大抵悪いことが起こる。つまり今回も、何かしらの悪だくみを働いているということだろうか。
 しかしここは、王城である。ここで何かをしたら、悪戯では済まされない。大事である。

「何をしようとしているかは知らないけれど、この王城で好き勝手するのはやめておいた方がいいわよ? ここは、お父様やお母様の庇護下ではないの。粗相をしたら、それなりの代償を支払うことになるわ」
「それはもちろん、承知しています。いつまでも子供扱いしてもらっては困ります」

 メレティアは、非常に楽しそうに笑っていた。
 彼女が機嫌がいいということは、私に対して優位に立っているということだ。
 私が次期王妃になると決まったことで、メレティアは最近不機嫌だった。その態度が変わったということが、とても怪しく思える。

「ふふ、まあお姉様はお帰りください。もうメイドもやめたのですから、ここに留まっている意味もないでしょう? ああ、それともかつての同僚に挨拶でもするんですか? 下働き同士、絆も深いでしょうからね?」
「……もう帰るわ」

 メレティアが何を考えているのか、私にはわからない。
 ただ、これから何かが起こることは確かだ。彼女は、絶対に何かを仕掛けてくる。
 その時のために、私は体を休めておくべきだろう。そう思って、私は王城から去るのだった。
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