上 下
6 / 66

6.王女の決意

しおりを挟む
『お兄様は、独善的な人です。第一王子として生まれたことによって、自分がこの国を支配する者だと信じて止まない人なのです』
『……なんとなく私の妹に似ているような気がしますね。妹のメレティアは、甘やかされて育ちました。それによって、わがままで傲慢な性格になってしまったのです』
『なるほど、やはり私達は似ているようですね……』

 かつてイムティア様は、私に兄について色々と話してくれた。
 王城に流れる噂以上に、彼女のアラヴェド様に対する評価は低い。肉親であるため、より悪い所が目に入ってくるということだろうか。

『私は、王位に興味などはありませんでした。それが欲しいと思ったことはなかったのです。しかしながら、兄の横暴な振る舞いを見ている内に私の考えは変わったのです。私は、王位を継がなければならないのだと……』

 イムティア様は、決意に溢れた顔で私にそう言ってきた。
 それは彼女が成し遂げようとしていることが、とても険しい道だということをよく理解しているから、そのような顔をしていたのだろう。

『アルバルド王国は、代々男子が王位を継いできました。現在、王家の子供は私とお兄様のみ。故にお父様は、伝統に則ってお兄様に王位を渡すつもりなのでしょう。ですが、私はそれを捻じ曲げみせます』
『この国で、初めての女王になるということですか?』
『ええ、それは私が王家の一員として生まれた責務だと思います。あの兄を野放しにしておくことを許してしまうのは、アルバルド王家の名折れというものです』

 イムティア様が王位を狙うのは、あくまでアラヴェド様を王にしないためであるらしい。
 彼を王にしないためには、彼女が矢面に立つしかないのだ。アルバルト王家が正当に続いていくために、彼女は決意を固めたのだろう。
 それを私は、とても立派なことだと思った。私もエルバラス侯爵家のことを考えてきたが、彼女のように未来を見据えられていなかったからだ。

『もしもあなたとお兄様の婚約が成立したら、私はあなたまで貶めることになるかもしれません。それが私は心苦しい。だから、この婚約をなきものにしたいのです』
『……気にする必要はありませんよ。私は大丈夫です』
『ラフェリア嬢?』
『あなたが成し遂げようとしていることは、きっとこの国の未来のためになります。それを躊躇う必要なんてありません。私のことは気にせず、どうぞ心の赴くままにその力を振るってください』

 私はイムティア様に、そう告げていた。
 彼女の願いを叶えたい。ただエルバラス侯爵家から逃げていただけの私は、王女の決意に賭けてみたくなったのだ。

『しかし、それでは……』
『それでもし私がひどい状況になったとしたら、またこうしてメイドとして雇ってください。それを約束していただけるだけで、私は充分ですから』
『ラフェリア嬢……』

 私の言葉に、イムティア様は目を丸くしていた。
 ただ、彼女もわかってくれたようだ。私の幸せが、地位や身分に関係するものではないということを。
 だから、イムティア様は力強く頷いてくれたのだ。きっと彼女なら、強い女王になれる。その時私は、そう思ったのだった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

あなたに未練などありません

風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」 初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。 わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。 数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。 そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

ユウ
恋愛
婚約者を妹に奪われた伯爵家令嬢のアレーシャ。 我儘で世間知らずの義妹は何もかも姉から奪い婚約者までも奪ってしまった。 侯爵家は見目麗しく華やかな妹を望み捨てられてしまう。 そんな中宮廷では英雄と謳われた大公殿下のお妃選びが囁かれる。

義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。

新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。

妹とともに婚約者に出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様

新野乃花(大舟)
恋愛
フリード伯爵は溺愛する自身の妹スフィアと共謀する形で、婚約者であるセレスの事を追放することを決めた。ただその理由は、セレスが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしセレスは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、セレスを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。 そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。 ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。 それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。 わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。 伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。 そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。 え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか? ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

処理中です...